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経済小説

飽くなき権力への執念 [10]
経済小説
2010年1月25日 09:36

野口 孫子

社長への序章 (1)

 営業統括本部長に任命された坂本は、「自分の時代がやってくる」と予感していた。
 さらに、天は坂本に味方したのである。就任して間もなく、神戸を中心とした地区を大地震が襲ったのである。
 テレビの報道は、あちらこちらでのぼる火の手、建築物の崩壊、高速高架道路の崩落などの交通機関の寸断等について報道し、国民は、その悲惨な状況に釘づけになった。
 山水建設の拠点事業所には、創業社長の山田が育てあげた第一線の営業マンたちがいた。彼らの間では、「お客さん第一」の精神が徹底されていた。山田は、常日頃から全社員に対して、「お客さんを大事にせよ」「お客さんあってこそのわが社である」「品質第一」「お客さんには最高の品質のものを提供せよ」と言いきかせ、その精神を徹底させていた。
 この伝統が、そのときの緊急事態に強みとなって現れた。自らの家が震災に遭いながらも、各営業担当と現場監督は、炊き出しのおにぎりと水を持って、自分が担当する顧客の様子を見て廻り始めたのだ。顧客の喜びは、計り知れないほど大きかった。震災に遭っていない近隣の大阪、京都、堺、奈良などの事業所も応援体制を組織し、神戸へと駆けつけた。
 この緊急時の対処方法は、毎年生じる台風被害の際に培われていたものだった。台風は毎年やってくるが、山水建設では台風によって被害を被った顧客に対する救援体制を平素より確立していた。
 しかし、台風どころではない未曾有の大混乱に、各所がバラバラに応援をしたのでは効率が悪い。そこで、中井は神戸大震災対策本部を設立、本部長に坂本を起用したのである。
「万難を排して、山水のお客さんがお困りのものや必要なものを供給せよ。家屋の損傷状況を調査して、生活できるライフラインを確保。緊急補修はすぐに取りかかるように」
 坂本は明瞭で的確な指示を下した。
 坂本の指揮下、全国から傘下の協力工事店を招集して神戸に派遣し、救援体制を確立した。当然のことながら、山水建設の建造物に住む客には、水・食糧・医薬品などが配られた。
 一連の活動によって山水建設は、「さすがは山水さんだ」と各方面からの大変な信頼を得た。さらに、山水が建てた家のほとんどが、大地震であったにも関わらず軽微な損傷で済んでいた。
 生前、山田は「最高の品質を提供する」という姿勢を絶対に譲ることがなかったが、それが生きていたのである。周りの家のほとんどが倒壊しているのに、山水の建物だけが大した損傷もなく、ポツンと立っているケースもあった。
 このときの山水の活躍が、神戸とその近隣の被災者たちの間に、「山水はすごいサービス体制を敷いている。建物も地震に強い。客には徹底して尽くしてくれる」という評価が広がり、定着させたのである。被災者たちの家は倒壊しているため、新築しなければならない。広まった噂の効果は絶大で、「家を建て直すなら、信頼できる山水にしよう」と考える被災者が、当然のごとく増えていった。まさしく『震災特需』と化した。
 その当時、山水建設は経営上の数字が芳しくなかった時分でもあり、震災はまさに天の恵みであった。
 その震災特需は2年間ほど続いた。山水は未曽有の増収増益を上げた。
「坂本常務、震災時はよくやってくれた。私の目に狂いはなかったよ」
 中井は満面の笑みで坂本の功績をたたえた。不謹慎かもしれないが、原因が何であれ、苦戦からの急転増収益である。笑いが止まるはずがない。
 その動きが認められた坂本は、その後すぐに専務へ昇格した。

(つづく)

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