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経済小説

飽くなき権力への執念 [12]
経済小説
2010年1月27日 11:15

野口 孫子

策略 (1)

 坂本は運も味方につけて、ついに社長に登りつめた。中井の社長時代に起こった造反劇の際の恩義、神戸大震災での功績が認められ、遂に社長に指名されたのだ。
 造反劇での坂本は、たまたま会長・渡部会長一派のことを快く思っていなかったので、彼らの誘いに乗らなかっただけの話である。渡部一派のほとんどは、親会社の山水工業から出向、移籍していた先輩幹部ばかりだったからだ。
「営業では俺の方が実績がある。先輩面した親会社出の人間に営業の何がわかるか!あいつらは信頼できない。あいつらが天下をとれば、わしはあいつらの末席に座らなければならないそんなのはまっぴらだ」
 そんな強い思いが坂本にはあった。自分は日本一の営業実績を持っている、というプライドがあった。
 坂本は山水建設の生え抜きの社員である。親会社の山水工業には、いい思いは持っていなかった。親会社が儲かると踏んで、子会社の事業と競合する事業を立ち上げたおかげで、山水建設にとって山水工業は第一線における競争相手となっていた。
 坂本は先見の明があって中井側についたわけではなかった。造反組の敗戦は、完全な準備不足によるものだった。本社や工場、中立派の役員など、様子見をしている派閥を取り込めなかったことが敗因である。
 たまたまではあるが、坂本は造反劇で勝利した側につくことになった。天の恵みであろうか、造反役員が一掃された後に大震災が発生。坂本は緊急事態への対応を任せられ、陣頭指揮をとった。
 創業者の山田が確立した緊急時対応のノウハウがあった。現場では坂本の苦労も大変なものがあったが、ノウハウを利用して災害に対処した。このときの評判をバネに、会社は急回復の大収益増となり、中井の坂本に対する評価はうなぎ上り。結果、それらの実績が中井の後継指名につながった。
 社内で「坂本が社長になるらしい」との噂が立ち始めた頃、常に威張る癖があった坂本だが、それに輪をかけてふんぞり返って闊歩するようになっていた。坂本に威張る癖がついてしまったのは、名古屋の取り巻きがそうさせてしまったからだった。名古屋での幹部会などでは、会場である超一流ホテルの会議室に、坂本がホテルマンの誘導で入ってくるときには、幹部全員が立ち上がり拍手で迎えるのが通例となっていたほどだ。
「まるで金正日将軍様だな」
 出席したことのある社員からは、そう陰口をたたかれていた。
 そうした笑い話ともとれるような噂までも、中井の元に投書が来るようになっていた。中井は秘書室から「また来てます」と投書を持ちこまれる度に、ムッとした顔になった。
 中井は坂本を呼んで社長室を呼び出した。
「こんな投書が来ているが、これは本当か!」
 あだ名のとおり、中井の顔が瞬間湯沸かし器のように真っ赤になった。
「そんな悪いことはしていません。誰かのいたずらか、ねたみではないですか?」
 坂本は見事なほどシラを切り、きっぱりと答えた。
「これから、身辺に注意しろよ!君一人だけの問題では済まない立場なんだ。会社の一大事にもなりかねないんだから、よく肝に銘じておけ!」
 中井は注意を喚起することはしたが、それ以上は言わなかった。というよりも言えなかったというのが本音だった。
「あんな噂がこれからも中井に伝わるようでは、自分の立場が危なくなるかもしれんな。最悪、次期社長の内示も白紙に戻されるかもしれない何か手を打っておく必要があるな」
 そう危惧した坂本は、自分の側近である社長室長の岡田と部長の木村と対応策を検討することにした。

(つづく)

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