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特別取材

何世代にも続いていける農業へ(5)
特別取材
2010年1月13日 09:56

目先にとらわれず広く・長い視野のすすめ

ウィンドファーム  中村隆市社長

日本の消費者の声をブラジルへ

 ―フェアトレードはどれぐらい途上国の方々に受け入れられているのでしょうか。

 中村 いろいろな困難はありますが、誠意を持ってやり続けてきた実績によって、信頼を得てきました。そのことで、少しずつ少しずつ広がりをみせています。
 一般的な企業は、自社が何らかの注目を得られるようになったら、そのやり方を他者に伝えるようなことはしないですよね。私は、ブラジルでカルロスさんという素晴らしい生産者と出会うことができました。このカルロスさんは、皆が幸せになることを常に考える人でした。そして、有機農法をたくさんの農民に教えました。それは、見方によっては、自分の「商売敵」を作るようなものですが、彼は、有機農法や森林農法が広まることが大事だと考えていたのです。
 貧富の差が激しいブラジルで、カルロスさんと同じようなことをすれば、貧富の格差が小さくなっていくと思います。

 ―途上国の方々に率先して働いてもらえるためにはどのようなことが必要ですか。

 中村 重要なことの一つは、消費者の声をしっかり届けることです。私が産地に行く時は、消費者からの「とても美味しいコーヒーでした」とか「有機栽培のコーヒーづくり大変でしょうが、これからも安全で美味しいコーヒーをつくり続けて下さい」といったメッセージを持参します。それは手紙だったり、ビデオレターだったりします。また、日本に生産者を招いたときは、できるだけ多くの日本人と会ってもらい交流してもらいます。今まで生産者は、自分がつくったものがどこへいくのか全然わかりませんでした。だから、そんなふうに消費者の声を聞けることが何よりもうれしいのです。

 弊社は小さな会社ですが、ブラジルとエクアドルに現地スタッフがいて、私も毎年産地を訪問しています。普通の会社はそこにお金をかけないわけですが、私は、生産者と消費者のつながりを育てていくことが大事な仕事だと思っています。消費者側もどういう想いで生産されているのかを知っていれば、飲む時にもより味わいが深くなるものです。

 ―途上国の方から教えていただくことも多いようですね。
ジャカランダ農場にて
 中村 本当に学ぶことばかりです。たとえば、自然に対する想いや接し方ですね。メキシコの生産者はナワット族とトトナカス族の先住民がほとんどですが、彼らは草刈りをするときも大地に話しかけます。「草を刈りますが、寒くはないですか?少し我慢してください。蒔いた種からすぐに芽がでますよ。今年も豊かな恵みを分け与えてください」と。
 彼らの考えでは、人間は自然の支配者ではなく、自然を構成している一員であり、動植物は家族だと考えています。人間と自然は分離されていないんです。しかし現代人の多くは、人間は動植物の上に立って、人間のためだったら自然に対して何をしてもいいという感覚です。だから、これだけ環境問題が悪化してきたわけです。森や川や海や大地への感謝の気持ちも、地球という大自然に対する感謝の気持ちも、現代人はほとんどもっていません。

 自分たちは自然の一員であり、自然を破壊したり汚染することは自分自身を破壊したり汚染することだと彼らは考えます。彼らの生き方や考え方をしっかりと伝えていくことが環境を再生していく手がかりになると思っています。途上国の人たちの役に立てればと思って始めた仕事ですが、実際には教えられることがほとんどです。

 環境問題がこれだけ悪化してきた大きな理由に「自分の会社さえ儲かればいい。自分の時代さえよかったらいい。人間さえよければいい」といった考え方があると思います。
こうした考えを根本から見直さなければ、危機的な状況の地球環境を救うことはできないでしょう。
 今は亡きカルロスさんがこんなことを言っていました。「地球の生命の歴史をたどれば、海や大地など大自然が親であり、動植物は家族のような存在です。家族を大事にしながら未来世代に配慮した生き方を取り戻すことができれば、地球は息を吹き返すでしょう」と。

(了)


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