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経済小説

飽くなき権力への執念 [16]
経済小説
2010年2月 1日 07:50

野口 孫子

権力掌握 (2)

 坂本は社長就任後しばらくは忙しい日々を送っていたが、一度芽生えた中井会長への不信感は消えることはなかった。さらにいえば、社長に就任してからも安心していなかったのだ。まさに中井は、坂本にとってじゃまでしかない目の上のコブだった。
「いつの日か、あいつを辞めさせねばならない」
 就任から間もないというのに、中井を解任することができないかということを考え始めていた。
 坂本の権力に対する執着心は異常なほど強かった。それは中井のように王道を歩んできた者にとって理解しがたい、想像を越えるものだった。
 中井も後継者を育てることをしてこなかった。人望が厚く、克己心の強い人物であれば、会社の発展のためにたゆまぬ努力を積み重ね、山水建設のよき伝統を引き継ぐことができたであろう。ところが、たまたま社長に指名した人物が、出世欲が強くて威張るばかりの、自分の利益しか考えない男であった。
「悔いの残る人選をしてしまったな…」
 中井はため息まじりでそう思ったが、後の祭りでしかなかった。
 創業者・山田亡きあと、「営業については、営業出身者が指揮を執るのでなければ、会社が持たない」との要望が社内で高まり、その結果、中井と渡部の醜い争いが繰り広げられた。
 坂本は、その両者の権力闘争をじっと見つめながら学習を重ねた。株式会社の社長は取締役会の議長であり、取締役会における決定事項のすべてを牛耳ることができるのだということも、繰り返し見てきた。取締役会で会長が社長の経営方針を批判したとしても、社長の一喝で討議は打ち切られ、次の議題に移るのである。
 こうして坂本は、社長がもつ権力の絶大さを肌で知ったのであった。学習を積んだ坂本は、社長が特権的にもつ人事権を、最大限に活用し始めるのであった。

(つづく)

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