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経済小説

飽くなき権力への執念 [17]
経済小説
2010年2月 2日 09:53

野口 孫子

権力掌握 (3)

 坂本は権力の掌握に万全を尽くしていた。
 「わしの目の黒いうちは勝手なことはさせん」と豪語していた中井だが、社長になってから意見を聞く耳を持たなくなった坂本を、まったく制御できなくなっていた。
 中井は、瞬間湯沸かし器との異名を持つほど、短気な性格である。日頃の坂本との意見の衝突は、抑えがたいほどの不満を生み、中井のなかで溜まりにたまっていた。
 役員会では、中井のヤジ気味の不規則発言が飛び出すようになり、坂本の演説が中断を余儀なくされることも、しばしばとなっていった。
 人前では常に「建前と正論」を言う坂本であったが、その言葉と行動が裏腹であることに対する怒りが、幹部全員がいる前で爆発し、さらけだされた格好である。
 2人の衝突はことあるごとに激しくなり、エスカレートしていった。
 かつての渡部と中井との子供じみた言い争いの有様が、今また、中井と坂本との間で再現されているのである。
「こんな会長と社長をいただいている会社は、もう終わりだな」
 心ある幹部はその様を冷ややかに見つめ、悲観していた。
 しかし、社長の持つ絶大な権力をフルに活用する坂本は、次の役員改選時に坂本派の人間をさらに役員に登用されていき、逆に反坂本派の役員は、次々と解任されていった。
「私は山水派です。誰にもつきません」
 坂本に面と向かって宣言し、坂本への忠誠を誓うことを断った小林は関係会社へ、田村は監査役へと飛ばされていった。
 中井はこうした坂本の仕打ちに対して、何もできなかった。中井会長包囲網は完成しつつあった。
 権謀術数にかけては、坂本の方が中井よりも一枚も二枚も上手である。中井追い落としの体制はできつつあったが、どのように辞めさせたものか。決定策を決めかねていた。
 中井は関西経済会副会長の要職にあり、政府傘下の建築協会の会長を務めている。強引な坂本も、さすがに何の大義名分なしに手をつけることができない。
 このような状況下では、当然社内の士気は上がらない。山水の力は徐々に落ちて行った。しかし、過去の成功体験にとらわれ、危機の本質をみつめようとする者はいなかった。
「わが社は一致団結の力で、幾多の苦難を乗り越えてきたのだ」
 坂本から檄が飛ばされたものの、坂本によって私物化された山水の社員は、もはや白けきっており聞き流すだけであった。会社の雰囲気は「笛吹けど踊らず」の状態となっていた。
 山田時代には「皆でやろう」という気概が常に下から盛り上がってきていたものだった。しかし、そうした山水のよき社風は、もはや遠い昔話の存在となり果てていた。

(つづく)

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