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経済小説

飽くなき権力への執念 [19]
経済小説
2010年2月 4日 09:51

野口 孫子

中央集権 (2)

 すでに山水建設の重要な案件に関しては、坂本の一存で決定できるようになっていた。
 すべての案件においても、坂本の決済が必要になってしまっていた。
 役員は何事につけても、自分の一存で決済することができない。事あるごとに爆発しそうな感情をぐっと胸の内に呑み込み、卑屈に笑いながらごまをすり、坂本の意向に従わざるを得なかった。自らの保身のため、そうせざるを得なかったのだ。
 もし、反対意見を言おうものなら、取締役という高給取りの座を失うことを覚悟せねばならなかった。
「そこまでやっても、損することはあれ得することなど何もはないではないか」
 すでに役員の大半が、そんな実利的な判断によって、『さわらぬ神にたたりなし』とばかりに、すべて坂本社長の決裁を仰ぐようになっていった。
 あらゆる業務が坂本に集中するようになり、誰が見ても、坂本が会社を牛耳っているのだということがわかるほどであった。
 坂本が思い描く、強力な中央集権体制ができ上がっていたのだ。
 そんななかでも中井は、先輩として苦言を呈しようとした。しかし、会長がいくら反対しようが、今の坂本には『のれんに腕押し』であり、思い通りの政策を実行した。

 坂本の頭の中は、中井追い落としのことで一杯だった。が、どうにもできないジレンマに陥っていた。
 中井は社交的な役割を負うことに専念していた。一方の坂本は、そうした仕事は苦手である。
 坂本は営業出身でありながら、取引先や工事店の人達から頭を下げられることに慣れてしまっていた。ヨイショと持ち上げられてばかりいたため、営業の指揮を執ることには秀でていても、自ら頭を下げることを忘れてしまっていたのだ。
 例えば、エレベーターのドアで社員とすれ違う時の、社員の「おはようございます」という挨拶も無視という姿勢である。見るからに横柄で、威張るような態度にひんしゅくを買っていた。
 大企業の社長ともなれば、人格的にも「美的感性」や「高い品性」といったものが求められることになろう。しかし坂本からは、そうした品格が、まったくというほど感じられなかった。
 取り巻き連中は、ゴマすることで坂本を上手に利用して生き延び、甘い汁を吸っていた。
 諫言する者などいない。こうして坂本は、裸の王様同然になっていった。


(つづく)

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