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経済小説

飽くなき権力への執念 [21]
経済小説
2010年2月 8日 10:35

野口 孫子

確執 (1)

 中井会長と坂本社長の確執は、ますますひどくなっていた。
 顔を合わすと無視し合うか、ののしり合うかで、その間柄は、もはや修復できない状況になっていた。
 日本経済は失われた10年と言われたように、政府の無策で長い不況が続いていた。当然、建設事業は、もろにその影響を受けていた。
 過去、何度にもわたって経験してきたこうした事態も、山水建設は全社員が一丸となり、乗り切ってきた歴史を持っている。だから、坂本の常套句も「わが社は過去にも、幾多の危機を乗り越えてきた実績がある。だから今回も一致団結、徹底的にチャレンジせよ」というものであった。
 過去の栄光は、全社員の心にしみこんでいる。危機の時にこそ会社に貢献しようとするのが、山水の社員であり、伝統である。
 しかし、坂本の登場で、伝統が壊れてしまった。坂本は社長就任早々、「きしめん人事」と言われるような、情実人事を実施したのだった。多くの名古屋時代の元部下を、重要ポストに登用したのである。そして、「わが社はまだ、ずぶずぶの濡れタオルのようなものや。コストダウンはいくらでもできる」と言って、強引な経費節減をやってのけたのだった。ボーナスカットを断行して、社員1人あたりの年収を50~100万円も減らしたうえで、「会社の利益が100億円も増えた」と胸を張ったのである。
 一方ではこっそりと、自分たち役員の報酬は引き上げていたのである。
 このような姿勢の経営者と社員との間に、信頼関係が培われるはずもない。経営陣の誰が何を言っても、社員の心には響かない。
 過去に全社員が一丸となることができたのは、創業者・山田社長が「幹部は威張るな! 職務上の必要から、本部長・支店長・部長・課長という肩書きを設けてあるにすぎない。仕事がタフなだけで、人間としては同じ。偉くはない。会社は運命共同体だ」との精神を明確に示していたからだ。
 全社員が経営に参画する意欲をもつことができるよう、決算賞与を設け、年4回の賞与を支給していた。
 こうした社内の背景があったればこそ、一致団結することができたのである。
 社員は馬鹿ではないから、自分たちさえよければいいという坂本の姿勢を、冷めた目で見ていた。
 本業である建設部門の売り上げは、減少しつつあった。
 山水建設は30年前に業界トップになっていたが、先輩格の日本建設がトップの座を奪おうと、すぐ後ろにまで迫っていた。
 そんな状況下、中井は中井で、坂本を何とか辞めさせる手だてはないものかと、方策を模索し始めていた。

(つづく)

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