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経済小説

飽くなき権力への執念 [23]
経済小説
2010年2月10日 14:29

野口 孫子

確執 (3)

 中井と坂本が会長室、社長室で、互いに「やめろ!」、「辞めない」と怒鳴り合う場面が見られるようになっていた。会長は、社長の首を切る権限を持ち合わせていなかった。
 また、勲一等を授与されるような会長の首を切るためには、それなりの大義名分が必要となろう。しかし、坂本にもそれはなかった。中井は、自らが「辞める」とでも言わない限り、居座ることができるのである。
 折しも、山水建設の業績は、思わしくない状況が続いており、3月期の決算では、日本建設が山水を抜いてトップに躍り出るであろう、との予想が新聞発表されるに至った。
 中井はこれをいい機会ととらえ、引退を決意した。
 中井の子飼いである取締役経理部長は、「挽回は不可能です。今期はかなりの無理をして、この数字です。坂本社長の強権的なやり方では、社員はまとまりません。今後のわが社からは、業界一の座を取り戻すほどの活力は、出てこないでしょう」
 半ば、投げやりの言葉が返ってきた。
 報告を聞いていた中井は愕然とした。
 後発でありながら、30年の間、先達の日本建設をおさえて首位の座を走り続け、業界のリーダーとして君臨してきた山水建設である。中井は、創業者の山田に申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。
 中井は、社長の坂本にこそ、一番の責任があることを指摘したうえで、「自分も責任を取って辞めるから、君も辞めたまえ!」と、共に責任をとって辞職するよう、強い口調で求めた。
 しかし、いったん手に入れた権力を、簡単に手放す坂本ではなかった。
 逆に、中井は「辞める」という言質をとられてしまい、事は、「中井会長辞任」という方向に向かって一気に流れ始めた。勲一等瑞宝章の受章が、「花道」として設定された。
 坂本の喜びはひとしおだった。「これで、目の上のコブはなくなった」と小躍りしたのである。
 こうして坂本は社長就任6目にして、恩義ある中井を退任に追い込み、絶対的独裁体制を確立したのである。
 大組織のトップは権謀術策に溺れてはいけない。君主は常に王道を歩むべきなのだが、坂本は経営者として「美的感覚も品性」も欠いていた。そうした人物を社長に頂いた山水の社員は、一部の人間を除き、金正日を首魁とする北朝鮮のような独裁体制に、翻弄されていくのである。

(つづく)

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