NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ

会社情報

経済小説

飽くなき権力への執念 [24]
経済小説
2010年2月12日 11:19

野口 孫子

独裁 (1)

 坂本は中井会長退任後、会長席は空席とした。代表権のある役員は、社長の坂本1人としたのである。
 中井の退任と新体制に関する議案も、株主総会で無事すべてが承認された。
 これで自他ともに、坂本の独裁体制が確立したのである。
「もう楯つく者もいない、遠慮する相手もいない。この会社を思い通りに動かすことができる」。坂本は、天下をとったという気持ちと、「やっとここまで来たか」という安堵感でいっぱいだった。広い、社長室のソファーに深々と座っていると、自然と満面の笑みが浮かんで来るのであった。
 今回の株主総会で、坂本は自らの体制確立のため、中井の退任を決定するとともに、役員改選では中井一派を一掃した。そして、お気に入りの幹部を坂本自身が面談し、自分に忠誠を誓うことを確約させた上で、新任の取締役に抜擢していった。
 このような雰囲気の中では最早、坂本に意見具申したり、苦言や諫言を呈するような役員は1人もいなくなった。北朝鮮のテレビで見られる光景とそっくりな状況が、山水建設でもくり広げられるようになっていた。坂本が一言話せば全員が立ち上がり、拍手をして賛同の意を示す。そんな独裁会社になってしまっていた。
 坂本は、自分には人望がないことを知っている。だから、恐怖と権力によってしか、統治できないと思っていた。恐怖を背景とした人事政策で、成績の悪いものは半年で転勤、坂本本部長に逆らう者も降格転勤、このような強引なやり方を、坂本は名古屋に培ってきている。
 坂本は、人は権力で操ることができることを知った。会社を意のままに統治するため、坂本が経験から得たことは、社長の人事権を最大限に利用することだった。
 坂本に刃向かうことは、役員・本部長・支店長等の地位と名誉を失うばかりでなく、2,000万、3,000万の報酬を捨てることを意味する。家族のことを思えば、自らが耐え忍ぶしか選択の余地がないのが、サラリーマンの常である。
 創業者の山田に育てられ、「人を大切に」「部下を大事に」「工事店の職人に思いやりを」と教えこまれている心ある幹部にしてみれば、忸怩たるものがあるだろう。
 しかるべき時期が到来するまで、忍耐するしかない。山水建設の、悲しく不幸な時代の始まりであった。

(つづく)

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル