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経済小説

飽くなき権力への執念 [25]
経済小説
2010年2月15日 11:44

野口 孫子

独裁 (2)

 厳然として存在する会社のルールを無視し、自分の一存で勝手に変えてしまうといった、独りよがりの状況に陥るのは、独裁者の常であるといえよう。
 坂本は、取り巻きが注意しても、聞く耳をもたない。注意や諫言が繰り返されると、自信過剰の坂本は「わしの言うことに反対するのか!わしが社長だ。わしが責任をもって決める!」と真顔で怒り出すのである。
 会社のことを思い、しつこく食い下がる部下がいたとしても、不服従として職を解かれ、転勤となるのがオチであった。したがって周囲の者は、坂本に対しては、恐る恐るのもの言いにならざるをえなかった。
 こうした周囲の曖昧な対応が、独裁者を益々つけあがらせることになる。すべてが自分の思い通りになるのだと、錯覚させるのである。
 毎年3月の人事と昇給昇格は、サラリーマンにとり、一大関心事である。山水建設は、昇格がなければ、昇給もなしというシステムをとっているため、昇格会議では、より一層の公平性が問われることになる。人間が決めることだから、もとより“完璧”というわけにはいかない。しかし、人事の公平は、至上命題であり、永遠の課題でもある。
 坂本は何の前触れもなく突然、「今年は思いきって、若手を抜擢したい。営業で業績をあげている東京の松本、広島の鈴木、秘書室長の宮崎を2階級特進させ、理事にさせる」と言いだした。人事担当の金子専務としては、寝耳に水である。進級については、どんなに優秀な者であっても、2年で1階級しか上げないのが、通常のパターンであった。それを無視した発言であったから、「ちょっと待ってください。人事のバランスが崩れます」と反対した。人事部長もまた、「公平性が損なわれる」として反対した。
 坂本は「お前たちがそんな甘いことを言うから、優秀な人間がやる気をなくすのだ」と一喝、昇格を押し切ったのであった。
 この若い3人は、先輩社員数百人を追い越してしまったのである。営業は業績が全てなので、多少のことは容認されようが、彼らが先輩より、抜きんでて秀でているというわけでもない。
 後任の若い秘書室長である宮崎は、坂本の手足となり、中井の動向を逐一報告していたので、その功績が認められたのであった。その前任の秘書室長も、常務兼東日本支社長に抜擢され、転任していた。いずれも、2階級特進させるほどでもないと思われていた。しかし、独裁者の決定には、誰も逆らうことができなかった。
 坂本はここでも、情実人事と思われても仕方がないことをしてしまった。こうして、「わしは全能だ」とばかりに、臆面もなくルールを無視する坂本の姿勢は、真面目な社員をしらけさせるだけだった。

(つづく)

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