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経済小説

飽くなき権力への執念 [28]
経済小説
2010年2月18日 14:49

野口 孫子

独裁 (5)

 坂本の「独断と独走」を止める者は誰もいないし、できもしなかった。
 トップが王様気取りで、会社組織を私物化しており、いろんな疑惑や噂などどこ吹く風。こんなことが永遠に続くのがよいなどと、思う者はいない。
 社員は息を潜めて、チャンスを待っている。
 創業者山田は「役員も幹部も社員も、全員が経営者だ。職務上、社長、部長などの任を負っているだけのことだ」「人間に上下はない」「上役は絶対に部下に向かって威張るな!」と言って、社内を一致団結させてきた。社員には、そうした山田の姿勢を意気に感じてやってきたからこそ、今日の隆盛を築いたのだという自負がある。
 その山田に育てられ、山水建設を愛してやまない誇り高き、社員の崇高な信念が、揺らぐことはないだろう。そうした社員の誰しもが、この独裁者を「野放しにしておけない」「山水魂は永遠だ」と思っている。
 坂本の奇策により、子会社の不動産会社を完全子会社化して売上を上乗せしても、山水建設の業績は、まだ日本建設に届かなかった。
 坂本の独裁政権の影響で会社の士気が落ち、本業の建設部門の低迷は続いていた。創業者山田社長の晩年に売上1兆円企業に到達して金字塔を立てた後、10年を経過しても本業部門の成績は、横ばいか、減少状況にあった。
 その間、山水建設は社内抗争に明け暮れ、新規事業も、新商品開発も、何ら手がけられていなかった。不動産事業は、山田が将来を見越して、布石を打っておいたものである。この先見の明があったればこそ、山水は辛うじて、救われたのである。
 坂本は、創業者山田に対する感謝の気持ちは持ち合わせていない。「すべてが自分中心でないと気が済まない」タイプの男である。
 このままでは、日本建設に水を開けられる一方である。いずれ株主から坂本に対し、「責任を取れ」という動きが出ないとも限らない。そこで坂本は、業績不振を覆い隠して株主の非難をかわそうという目的で、超優良企業の不動産子会社を完全子会社化したのだった。
 折しも、日本経済が、長い不況のトンネルを抜け出しつつある時であった。

(つづく)

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