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経済小説

飽くなき権力への執念 [29]
経済小説
2010年2月19日 11:41

野口 孫子

独裁 (6)

 坂本の弱点は会社の「業績」だけであった。業績を確保し、高配当を続けていれば株主はなにも言わない。
 会社の内政は、恐怖・強権によってコントロールできる。業績さえ回復すれば、坂本は独壇場であるかのごとく、会社で振る舞えることになる。中井が去った後、坂本を牽制することができる存在を欠いているため、坂本の言うことが「法律・憲法」となってしまっていた。
 山水建設の社員の資質は高い。最高の品質のものを、最高のサービスで提供するという経営哲学が、末端にまで浸透していた。お客様のことをわがことのように思い、尽くす姿勢が徹底していた。このことを神戸大震災の時、実証して見せた。
 緊急時の対応力こそが、会社の実力である。山水のそうした力は、創業者山田が築いた財産であった。そのことが世間では、山水建設の高い信用力としてイメージされ、定着していた。坂本はこうした土壌で育ったので、経営哲学については山田と同じであった。
 しかしながら坂本は、権力欲や金銭欲が個人的に強いため、反対者を排除したり、最高権力を利用して会社組織を私物化したりと、やりたい放題であった。
 もはや、誰も坂本を止めることはできなくなっていた。取り巻きは坂本を利用して、自分にもちゃっかりと「利益誘導しよう」という者もあらわれていた。山水建設の倫理観は、上層部から崩壊しつつあった。
 坂本が高い理想を掲げて社員を鼓舞しても、誰も聞く耳を持っていない。
 優秀な社員が多い山水建設のことである。社員たちの不満は、そう遠くない時期に大きなうねりとなり、改革を目指して動き始めるだろう。
 社員の報酬はこの10年ほど、業績が悪いことを理由に下げられることはあっても、上がることはなかった。
 一方、役員の報酬はこっそりと、1.5~2倍に上げられていたのである。こうしたことは山水建設だけでなく、多くの大企業でも行なわれていることだった。
 知らぬは社員だけである。社内では、坂本に追随する者とそうでない者とのあいだで、勝ち組と負け組がはっきり分かれてきていた。

 この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば
 祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす…

 この有名な歌と言辞は、盛衰がめまぐるしく入れ換わる現代を映す、鏡そのものだといえる。坂本の倫理観を欠いた栄達は、歴史的視野から見ても、長く続くことはないだろう。


(つづく)

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