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経済小説

飽くなき権力への執念 [30]
経済小説
2010年2月22日 08:10

野口 孫子

経営者の倫理 (1)

 企業にとって永続性は大事な要素だが、山水建設の創業社長・山田のような名経営者を、代々引き続いて得ることは難しい。
 坂本は権力者である社長の座に就いた途端、周囲にゴマをすられるようになり、いつの間にか権力にしがみつくようになっていた。長期政権を維持したいがために、ありとあらゆる方法で、自らの立場を死守しようとするのであった。
 イエスマンばかりを自分のまわりに置いたために、うけとる情報に偏りが生じ、都合のいい話しか聞かされない間に、「油断とおごり」が定着するのである。坂本と似たような社長を頂く企業に、粉飾、偽装、脱税など、不祥事が発生しやすいのはこのためである。しかしこの世に、永遠のものなどはない。
 坂本は本来、山田が作った山水カラーに染まった人間であったはずである。企業にはそれぞれに社風があり、社員は知らないうちに、会社のカラーに染まるものである。
 しかし、権力を握った坂本の周りには、ゴマすり人間たちが集まることになった。ゴマすりは、権力を持つ者にすり寄っていくものである。すり寄られる方も悪い気はしない。そして毎日、甘い汁を吸うことになる。甘い汁ばかりを吸わされ、さすがに辟易して「甘いのはもういい」と言っても、部下は甘さを抑えて持ってくる。
 ゴマすりは手を替え品を替え、あらゆるゴマをすり続ける。気がついた時には裸の王様になっていて、後戻りできなくなっている。
 権力の座につく者は、よほどの自制心と自律心を持っているのでなければ、恋々と地位にしがみつき、「甘い汁」を吸いたがる人間になってしまうのだ。
 長い間権力の座にいると、その態度は、例外なく「傲岸不遜」なものになると言われている。坂本はまさしく、そうした病にかかっていると言わざるをえない。
 坂本が社長に就任したばかりで、北陸地方の協力工事店による会議に、初めて出たときのことである。夜の懇親会の時には、取り巻きによって、高級ワインが用意されていた。「今度の社長は年代ものの20万円以上の赤ワインしか飲まない」との理由によるものである。地方では、日本酒による献杯と返杯を繰り返すなかで、肝胆相照らす仲となっていくがならわしだ。周囲が甘い汁を用意してしまうため、工事店に対する「日頃の慰労とお礼」のために来ているのだという宴席の本来の趣旨を、忘れてしまう坂本であった。

(つづく)

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