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経済小説

飽くなき権力への執念 [33]
経済小説
2010年2月25日 10:04

野口 孫子

バブルの再来 (2)

 日本経済は再び、不動産バブルではないかと思われるような状況を呈してきた。外資からの投資資金が大量に流入し始めたのである。
 欧米との金利差が大きいため、円安状況にある円を低い金利で借り入れての、割安な株や大都市の土地に対する投資が始まったのである。
 そのころは長い不況による影響で、大都市のあちこちにも遊休地があった。それをいかに運用し、収益率の高い物件に仕上げるかは、山水建設の得意とするところであり、確たる「ノウハウ」をもっている。
 山水建設としては、外資の動きにより、新たな開発事業を軌道に乗せるための目途がついてきたところであった。こうした状況を受けて、ひるみかけていた坂本の態度も一転、強気に変わり始めていた。
 坂本は、「誰も止めることができない」「誰も逆らえない」といった、強面の雰囲気に包まれるようになっていった。
 折しも、役員の改選期を迎えていたこともあり、坂本は元会長一派と思われる役員を罷免し、自分に忠誠を誓う者だけを、役員として新たに登用した。そうした中で、後に社長となる東京営業本部長の斉藤を取締役に昇格させた。一番のスピード出世だった。
 斉藤は東京営業本部長のポストにつく前は、広島の支店長をしていた。広島時代の営業実績は、田舎にいながら抜きんでたものがあった。坂本は斉藤の経歴を「自分に似ている」と思っていた。自分の若かりし頃が思い出されるのか、「彼とはリズムが合う」とも感じていた。
 斉藤は営業としては一流だから、人当たりは抜群である。坂本に対しても何のてらいもなく、ごく自然な態度で接してくれるのも快かったのだろう。
 一方、開発事業で実績をあげた中村も、論功行賞により、常務を1期務めさせた後に専務に昇格させた。
 中村もまた、斉藤同様に坂本に可愛がられ、飛ぶ鳥を落とすがごとき勢いをもち始めていた。
 こうして、坂本色のみで構成された役員たちのなかに、坂本に意見する者がいないのも、当然のことであった。ましてや、反論を述べたり、諌めたりする者がいるわけがない。山水建設の役員会は、日本の多くの企業に見られるような、イエスマンだけによる社長の独壇場となってしまった。
 坂本は役員会で、「何か意見がないか」「誰も何もないのか」「お前たちには自分の意見はないのか!」と恫喝する。
 しかし、意を決した若い役員が意見を述べると、ぼろくそにけなされることになる。
 そうした光景が繰り返されたことにより、益々、誰もものを言わない役員会になっていった。
 坂本は絶頂期を迎えていた。ここに、完全なる坂本体制が確立したのである。

(つづく)

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