前述のように、折しも金融バブル時代。ロンドンシティの紹介で、「海外事業が成算あり」と踏んだのだろうか。2年前の2008年5月に国際部を新設し、本格的に参入することを決めている。
イギリスは今でこそ斜陽の大国と言われているが、そうは言われながらも、したたかさは大したものである。中東のドバイがあれだけの活況を呈したのは石油マネーによるものと言われているが、裏ではロンドンシティの金融が相当流れ込んでいると言われている。
ドバイはかつてのイギリスの植民地。ドバイで一番人気があるスポーツがクリケットであることからも分かる通り、イギリスの影響を色濃く受けている。
そのドバイに行くと、インド人の出稼ぎ労働者が多いことに気が付くだろう。ドバイは、植民地インドをつなぐ中継地になっていた。両国の関係も深いのである。インドでのITの拠点となっているバンガロールとシンガポールの間は、超高速の海底ケーブルで結ばれている。シンガポールは東南アジアの中継点でもあり、オーストラリア・シドニーとの間に、かつて超最新鋭A300(700人乗り)を世界で初めて就航させたように、両国は深くつながっている。
世界地図を広げて見れば分かるが、「ロンドン」――「ドバイ」――「バンガロール」――「シンガポール」――「シドニー」と、真っ直ぐ、斜め横一線につながっている。
これを世間では、「ユニオンジャックの矢」と言っている。
このようにイギリスは、かつての植民地では言語・文化が共通なのを上手く利用し、ネットワークを形成している。そのネットワークを利用して、積水ハウスに対して「ドバイ」と「オーストラリア」を紹介したのではないだろうか。
積水ハウス側が、この辺りの事情を承知しながらロンドンシティの投資会社の紹介を受け、ドバイに投資をしたのかは分からないが、金融危機以来、活動は急速にしぼんでいる。
オーストラリアでは大型投資をし、現在も進行中ではあるものの、中期計画の通りになるかは定かではない。
いずれにしろ、リスクを伴う海外事業である。先人の失敗の歴史を再び繰り返すことのないよう、万全の体制で臨むべきであろう。
【野口 孫子】
※この連載は積水ハウスに対してエールを送るものであり、誹謗中傷を目的とするものではありません。
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