かつて、学生の「就職人気ランキング」の上位には必ずその名があった積水ハウス。まさに、強い輝きを放っていた。その有名企業が、なぜ凋落の傾向になっているのか。
積水ハウスが経営がおかしくなってきたのは、21世紀に入ってきてからだ。
業績が右肩上がりの時、問題点は覆い隠されているものだ。
世界中の人々が、アメリカの、サブプライムローンと呼ばれた「水増し」経済の活況に沸いた。砂上の楼閣とも知らずに世界中に金が乱舞し、不動産と資源の狂乱を招く。やがて、『忘れられた10年』に蝕まれた日本の地価が下がりきっていると見越して、熱に浮かされた外資が土地投資に向かってきた。
その動きに、積水ハウスの推し進める都市開発事業が当たる。その勢いは、本業の請負住宅事業を忘却させるものだった。
1973(昭和48)年のオイルショックの時、いみじくも積水ハウス中興の祖・田鍋健社長(当時)が言った。「このような異常事態は長くは続かない」と。案の定、ヒステリックな狂乱は、半年で終息したのであった。
田鍋さんは、優秀な経営者だった。
リーマン・ショック後、所有土地の暴落が今回の評価損に結び付いたことは、容易に想像できる。経営者の先見の明のなさ、市場の動きや変化をみる力がなかったと、いうことだろう。
50年の歴史を刻み、世界に類のない「住宅の工業化」という事業をここまで大きく発展させた功績は大である。鉄鋼、電機、自動車などのように先進国に学ぶのではなく、羅針盤のない事業をここまで発展させてきたのである。
アメリカ経済学者のジェームズ・C・コリンズ氏は、企業が衰退する段階を次のように言っている。
「成功によるおごり」
↓
「規律なき膨張」
↓
「リスクと危うさの否認」
↓
「ひたすら救世主にすがる」
過去の成功体験にしがみつき、環境や市場の変化による経営リスクを直視せず、そして開発事業を海外に頼ろうとしているように見える積水ハウスは、この4つの段階をなぞっているようにも思えるが…
しかし、遅くはない。修正はできる。最大のライバル・大和ハウスのこの3月決算は、期初の計画を上方修正している。
この逆風のなか、他社は懸命に知恵を絞り、切り抜けようとしているのだ。
【野口 孫子】
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