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経済小説

飽くなき権力への執念 [36]
経済小説
2010年3月 2日 09:01

野口 孫子

バブルの再来 (5)

 海外からの投資資金が洪水のように日本に流れ込み始めたため、大都会を中心に土地の動きが活発化した。超高級マンションや超高級ホテル、それらを複合したビル群等が飛ぶように売れていた。ほとんどが何百億円、何千億円という規模の、超大型プロジェクトであった。
 山水建設も、こうした市場の動きのなかで最先端を走る企業に成長していた。
 大型の土地取引が行なわれるなか、坂本から「松井不動産を仲介業者に入れるよう」要請された中村は、坂本の機嫌を損ねるのを避けるため、数字を操作したのであった。松井不動産は大した仲介業務をしていないのにもかかわらず、ある大きな案件をてがけたかのように装い、300億円の土地取引の仲介手数料として、1%にあたる3億円を支払ったのであった。
 中村としては、喉に魚の骨でも刺さったかのようなこころもちであった。自分にも黒い噂が立つことを恐れたが、坂本に押し切られてしまった。社内では、中村もゴマすりの一味として認知されることになった。
 「従業員が2人か3人しかいないような零細不動産に、なぜ、これほど大型の取引が可能なのか」「坂本にバックマージンが流れているのでは?」という観測が流れていた。
 坂本も、生まれながらにして悪人の素質を持っているわけではないだろう。権力の周囲には、ゴマすり人間がすり寄ってくる。人間、すり寄られると悪い気はしない。甘い汁を吸わされ続け、さすがに「いらん!」と言っても、ごますり人間はさらに砂糖をつぎたそうとする。しまいには甘さにマヒしてしまい、「もっと甘いものが欲しい」と思うようになる。そして、とうとう糖尿病を患い、病人になってしまうのだ。権力の座に恋々としがみつくのも、結局は甘い汁を吸っていたいからなのだろう。
 口では「経営の原点に戻れ」「質素倹約、経費を節減せよ」と言いながら、自分は特別だからと20万円のワインを飲む。贅沢が当たり前で、金ピカピカにもっと磨きをかけなければ気が済まない。
 「自分がいなければ会社は成り立たない」「会社の利益は自分が全て稼いでいる」との錯覚に陥っているのが、現在の坂本ではないだろうか。
 人間は強欲と保身のかたまりである。それをセーブするのが倫理観であろう。しかし坂本は、長年ゴマすりに飼いならされたためか、倫理観のかけらもない。
 大金を持つと「もっと欲しい」との欲が働くのが人の常だ。
 社長などリーダーは「倫理観を磨き、自律自制を自らに強く課すべき」であろう。それがわかっていながらできないのが人間なのである。
 依然神のようにふるまい続ける坂本であった。

(つづく)

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