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経済小説

飽くなき権力への執念 [37]
経済小説
2010年3月 3日 09:24

野口 孫子

バブルの再来 (6)

 坂本の言動は、良識ある社員にしてみれば、目を覆うばかりということが多くなっていた。しかし、業績が坂本をバックアップしていた。
 誰も何も言えなかった。
 その頃、開発事業担当の中村は、大都市のなかでも利便性のいい1等地を、資金力にものを言わせ、市場価格の3割~5割増しで落札していた。
 そうした高価な土地であっても、ホテル・商業施設・超高級マンションの建設を企画して売り出せば、右から左へ飛ぶように売れていた。
 ホリエモン、村上ファンド、リーマンブラザーズなどが飛ぶ鳥を落とす勢いを誇っていた時代であった。新規開発事業の成功で、山水建設の業績は史上空前の売上・利益を上げるようになっていた。
 坂本はますます鼻息が荒くなり、内外に向け、5年計画を発表した。
 「売上2兆円、業界首位の奪取を目指す」としたのだ。
 坂本はこういう時にこそ、「本業の建設部門の足元を固め、次代のための新商品、新技術の開発に向けて投資する」ことを忘れていたのである。
 創業社長の山田は、石油パニックのときに「わが社は本業以外には絶対に手出ししない」と言って、「ゴルフ経営が儲かる」「リゾートが儲かる」「ホテルが儲かる」といった銀行からの誘惑話には一切乗らなかった。
 そのため、バブル崩壊後にも、投機による借金は一切なかった。
 競合他社の多くはそれらに手を染めており、バブルの後処理に苦労していた。それらから得られるはずの教訓を、坂本は無視していた。
 経営者は目先だけを見ているわけにはいかない。先見性が備わっていなければならない。坂本の周りはゴマすりで占められているので、坂本の言うことに対する返事は、すべてが「イエス」という状況にある。ゴマすりは保身に長けているため、坂本に逆らってまで意見することはない。坂本とその一派は自己中心的集団と化しており、日頃いかに綺麗ごとを口にしていたとしても、山水建設の未来や社員とその家族、工事店の人たちのことなどについては、考えることもしない。
 山水建設の本業である建設業は好況であるにも関わらず、同社の本業における業績の伸びは少なかった。会社全体の数字は増えていたが、増えているのは開発事業と不動産事業であった。
 このような状況下では、数字が伸びたからといって浮かれていてはいけないはずである。本業をないがしろにしていた「ツケ」が、やってこようとしていた。

(つづく)

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