NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ

会社情報

経済小説

飽くなき権力への執念 [41]
経済小説
2010年3月 9日 10:00

野口 孫子

権力の全盛期 (4)

 長いあいだ権力の座についている坂本だが、所詮、普通の人でしかなかった。
 周りから否応もなくチヤホヤされるうちに、傲岸不遜な態度が身についてしまっている。
 「自分がいないと、山水建設は持たない」といういわれのない自負心には、相も変わらず旺盛なものがある。
 社内では経費節減を強く要求しているにもかかわらず、広告宣伝費は大幅に増えてしまっている。テレビコマーシャルはほとんど毎日のように流されており、しかも、夜の8時~10時という放映料金の高いゴールデンタイムが放映時間にあてられている。目に余るほどの放映量だ。
 巷からは、「山水は儲け過ぎているのでは」という声まで聞こえてくる。
 坂本としては、本業のテコ入れと会社全体の販促支援策として、思い切ってやっているつもりだった。しかし、坂本の長男が大手広告会社に勤務しているため、
「ゴマすりのため、広報部長が大量のCM放映を始めたからだ」「坂本はそれを目を細めて容認した」
 などという噂が立ち始めたのだった。広告会社は大手企業の社長の御曹司を採用しておいて、「親ばか」を利用して広告受注の増大を目論むものであるということを聞くが、坂本の行状を見ている者には、噂は事実だとしか考えられない。
 坂本は、言うこととやることが明らかに違っているが、「言行不一致」を誰も咎めることができない。ゴマをすろうとする部下は、あの手この手で坂本の機嫌をとるのであった。
 リーダーは自らに厳しく、「自律自制」を実践することができる人物でなければならない。そうでないと、知らぬ間に甘い汁を吸わされ続け、取り返しのつかない病をかこつことになってしまう。
 息子の実績向上に寄与してくれた松野広報部長は、当然のごとく、坂本の覚えめでたい人物である。次の役員改選時には、井口秘書部長と共に執行役員に昇格したのであった。
 井口の昇格は異例中の異例で、超スピード出世だった。そこにはきな臭いものが感じられたが、異論を挟む余地はなかった。誰もが「おかしい」と思っていたが、押し黙っているよりほか、選択肢はなかった。
 ぬるま湯にどっぷりとつかっている俗人の坂本に、「自律自制」を求めるのは所詮無理なことだった。
 自制できないことを悟られぬよう、専制君主のような権力を、より強硬にふるうことしかできない坂本であった。

(つづく)

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル