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経済小説

飽くなき権力への執念 [42]
経済小説
2010年3月10日 09:49

野口 孫子

権力の全盛期 (5)

 坂本は社長就任早々に、「わが社はずぶずぶの雑巾見たいなもの、なんぼでも、絞って、経費は節減できる」と言っていた。
 その意味は、社員の賞与カットと納入業者への仕入れ価格の削減、事業所経費の削減だった。
 「このように厳しい状況だから、利益が上がるまではコスト削減、賞与も賃金も上げられない」と社員には言いながら、山水建設自体の利益は出していたので、裏では、社長を含めた役員報酬を役員会で秘かにあげていた。
 社員の昇給は月5,000円~1万円位、それぽっちで社員は我慢させられているのに、役員たちは自分たち手前勝手に月10万円~100万円位と、桁違いの昇給をしていた。
 それも数回にわたって行なわれていたのだった。
こうしたことは公開する必要はないので、役員だけで極秘裏に行なわれていた。
 このように、
「自分たちは社員と違う立場の人間である。アメリカの経営者に比べれば安すぎる」
 という勝手な論理で、自分たちの都合のいいように決めていたのであった。
 時は折しも「勝ち組、負け組」とマスコミがはやし立てていた。マスコミは経営者の倫理観を追及することもなかった。
 心ある経済コメンテーターが「日本の労働者に賃金は、この10年間下がってる。なのに、経営者、役員報酬は倍になっている」と言っていた。
 創業者山田元社長なら、決してこのようなことはしなかっただろう。
 山田は常日頃、「経営者と社員は運命協同体」であると言い、実践していた。
 欲望の強い坂本はそのような考えはさらさらなかった。世間の風潮がそうなら、自分たちもという考えだった。

 「桃李言わずして 下自ら蹊を成す」(とうりものいわずして、したおのずからみちをなす)。
 司馬遷の「史記」の一節、桃やすももの木は何もものを言わないが、美しい花を咲かせ、果実を実らせる。そのため人が集まり、道ができる。徳のある人には黙っていても人が慕い寄ってくる。

 いくら能力あっても、人望のない人間には人は集まらないし、必要な情報も集まらない。坂本は権力でしか統治できないため、権力を利用するための下心のある人しか集まらない。情報は当然捻じ曲げられているものだった。
 蛇足だが成蹊大学の名前ははこれから由来している。

(つづく)

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