NET-IB NEWSネットアイビーニュース

サイト内検索


カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ

会社情報

経済小説

飽くなき権力への執念 [51]
経済小説
2010年3月24日 09:58

野口 孫子

不祥事の多発 (6)

 社員、幹部がトップ坂本のビジョンや使命感に「惚れ込み」、坂本の人柄に「惚れ込んだ」ならば、社員は「無理ができる」ようになる。
 経済危機がやってきても、「無理」ができなくては乗り切ることはできない。「無理と知恵」でしか乗りきることはできないのである。
 トップが尊敬されていたら、誰もが事情を飲み込み、給与カットや賞与カットも前向きに受け入れられるだろう。
 しかし、坂本と社員との一体感はもはやこの会社には存在していなかった。社員にはこの10年、世間の不況を理由に、賞与カット、昇給の抑制を図ってきていた。一方、自分たち役員の給与、賞与は10年間に倍くらいに引き上げ、おまけに、役員の退職慰労金の抑制という大義名分で、1株1円で自社株を役員だけに1,000株以上を割り当て配布したのである。
 もちろん、社長は割り当てがいちばん多かった。法的に許されているとしても、このようなことをやる社長に社員が「惚れ込む」ことは絶対あり得ないことだった。
 1兆円企業に育てあげた創業社長山田の人柄、使命感、公平性、倫理観に社員が「惚れた」から社員は「無理」ができたのである。「無理」「知恵」で数々の苦難を乗り越え、業界一の企業になったのであった。
 社員個人個人が経営者になった思いで自立し、輝いていた。トップの持つ権力でやらせることはときには必要だが、トップはまた、肩書きなしでも「心服」「納得」させる要素、器量を見せることが大事なのだ。そのことを山田は体現して見せていた。
 坂本は山田のつくった山水建設のクリーンなイメージ、洗練されたな営業姿勢や高い設計力、高品質な工事などの「遺産」を食い尽くしながら、辛うじて、現状を維持しているだけである。
 近年の不祥事の多発は組織に、「ほころび」が出始めている兆しであると捉えた方が正しいだろう。
 坂本の強権的、制裁的な左遷人事の断行、それによる無用なプレッシャーに下役は追い詰められて、出来もしないことを、あたかも出来たかのようにしていないか。
 自分の金を出して、虚偽の契約実績報告をしてはいないか、上役は坂本ばかり見て、社員の苦悩の虚偽を見逃しているのではないか、このようなことがまかり通る体質が続く限り不祥事は今後も続き、決して無くなることはないだろう。

(つづく)

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
NET-IB NEWS メールマガジン 登録・解除
純広告用レクタングル

2012年流通特集号
純広告VT
純広告VT
純広告VT

IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル