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経済小説

飽くなき権力への執念 [53]
経済小説
2010年3月26日 09:57

野口 孫子

開発事業の破綻 (2)

 アメリカで発生した「サブプライムローン」問題で、日本の各銀行はサブプライムの入った毒まんじゅう入り投資債券を大量購入していないとして、実体経済への影響は少ないと言われていた。
 しかし、外資の投資銀行の動きは速く、大都市への不動産投資をストップし、一気に資金を引き揚げ始めていた。そのために、東京の地価が急落へ転じ始めたのである。
 飛ぶ鳥を落とす勢いの坂本、中村はこの動きの速さについていけなかった。
 企画した複合商業ビルの売れ行きがパッタリ止まってしまったのである。
 今まで開発事業の成功は「自分の決断によって、この活況を呈した」と坂本は自負していた。そして、担当の中村には喝采と讃辞をおくっていた。
 高買いしていた土地の販売計画は、地価下落とともに採算が合わなくなっていた。計画の延期か、計画自体を変更せざるを得なかったのである。さらに、高値の土地を「塩づけにするか」「評価損で処分するか」の選択しかなくなっていた。
 その動きは、経験したことのないほど急激だった。完全に、不動産市況の潮目が変わってしまっていた。

「あいつがこんな状況になることを予測できず、高い土地を買いよって!」
「結果責任は現業の中村の責任だ」
 坂本は、業績好調のときは自分の手柄にし、失敗すれば担当の責任としたのである。「部下の責任にする」のが坂本の性格であり、常套手段でもあった。
 坂本は決算発表のとき、「開発事業の土地仕入れ分は2~3年後にしか寄与しないため、今期の売上目標は達成できない」と釈明していた。
 もはや、開発計画もできなくなり、不良資産化の恐れのある土地、評価損を出す可能性の土地の長期所有は頭の痛いことであった。しかも地価の値下がりは続いていた。
 坂本は開発事業の破綻で「自分の社長の座が危うくなる」と思っていた。そんな「いやな思い」が中村に対する憎しみを募らせることになっていった。
 とうとう坂本は役員改選で、中村を副社長には据え置いたものの、「開発担当職」を外し、無任所の社長補佐としたのである。
 完全に干してしまう、得意の人事を断行、坂本自身が開発担当になるのである。

(つづく)

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