権力とは、立場のことである。上司と部下には業務上、職責上の立場の違いがある。上司は部下に対し、業務命令権という権力を有している。部下はこの上司の命令に対しては、正当な事由なくして拒否することはできない。この権力の有無によって、上司は部下より強い立場にあり、リーダシップを発揮することができる。
しかし、真のリーダーは非権力的なもの、肩書きを外してもなお、部下から尊敬されるような「人間力」を持っていなくてはならない。
トップは、部下が自分に従っているのは単に権力によるものなのか、それとも心服、信頼、尊敬などによるものなのかを、見極めるべきである。部下が権力のみによって従っているのであれば、そのトップは真のリーダシップを発揮しているとは言えない。そのような場合、部下は面従腹背を決め込んでいると思わねばならない。
会長や社長という肩書きによる「権力」に、非権力的な「人間力」が加われば、それが「権威」となるのである。そうすると部下は心服し、命令を意気に感じて働くものだ。
現在の積水ハウスは、お世辞にもトップが「人間力」でリーダシップを発揮しているとは思えない。その辺りに、同業他社と比べて業績が思わしくない理由が潜んでいるように思える。
環境庁より「エコファースト企業」と認定されたように、環境に対する取り組み姿勢は業界ナンバー1。アフターを含めた品質保証体制、営業の総合力の資質、企業のブランドイメージもおそらくナンバー1であろう。
今でも、かつて業界ナンバー1の座を30年間も守り続けた伝統は、脈々と生きている。にも関わらず、現体制になってからはナンバー1の座を大和ハウスに譲り渡し、以来ずっと後塵を拝し続けている。
なぜなのか。
一概に、「コレ」という原因を述べることはできないが、社員の士気が低下してしまったことが、一番大きな原因ではないだろうか。
前述したように、強い権力を利用して部下に命令を下すだけでは、部下は面従腹背を決め込んでいたのではないだろうか。一部のゴマすり幹部を除いて、トップに付いてくる部下がいなかったのでないだろうか。
トップのビジョンや夢が見えず、ただ実績だけを求められるような体制では、社員に「無理ができなかった」のではないだろうか。
この大不況の時代、社員や幹部が一丸となり、会社全体が「無理ができる体質」にならなければ、この危機を乗り切ることはできないであろう。
他社と比べて色々な面で優位に立ちながらも現在の業績が低迷している原因は、どうもこの辺りにありそうな気がしてならない。
【野口 孫子】
※この連載は積水ハウスに対してエールを送るものであり、誹謗中傷を目的とするものではありません。
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