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企業、人 再生シリーズ

黒木透・再生への道(52)
企業、人 再生シリーズ
2010年4月 9日 10:38

<リスクを徹底して計る>

 株価の向上を詳しく分析してみると、株式を外資系投資ファンドが買っていることが分かった。マリアクラブ跡地の開発で得た信用を国内企業よりも外資系ファンドが評価してくれている証拠だった。国内の景気はかんばしくない状態が続いていたが、一方で海の向うでは投資先を探すような状態が続いていたのである。国内だけで顧客を探すよりも、不動産の証券化というスキームを使って広く海外まで視野に入れた開発を手がけた方が理にかなっているのではないか。黒木は外資との付き合いを濃くしていく決断をした。

 外資系投資ファンドは建物を証券化して売り出すという手法をとる。そのため、規模が小さな物件では割りに合わず、必然的に大きな、投資価値のありそうな物件での付き合いということになる。したがって、外資系投資ファンドと結びつきが太くなるということは一つずつの物件が大きくなるということを意味する。大きな物件は大きな利益を生むが一方でリスクの存在を忘れてはいけない。黒木は言う。

 「この物件はうまくいった、その次の物件もうまくいった。けれども、その次でも同じようにうまくいくという裏づけはありません。直接の販売先になるSPCは証券化のための組織であり、自己資本も限りなく少ないのです。物件を着工した頃と竣工したときで、同じ状態であることの確証は何もありません。ですから、慎重な取引を余儀なくされます」

 この言葉どおり、案件の一つひとつをしっかりと吟味し、取り扱うもの、そうではないものを見きわめた。リスクがどの程度あるのか、実入りがどれくらいになるのか。10億円を越える案件は、いずれも取締役会での決議を要した。黒木一人の思いや取締役一人の考えで突っ走ることができない仕組みをつくったのである。

 あるとき、ファンドがらみの案件が2件、取締役会にかけられたことがあった。ひとつの案件は出先がしっかりと約束されていたため着工が許可されたが、もう一方は約束が弱いという理由で却下された。2年後、竣工したときに、その会社と安心してタッグが組めるかを議論した結果のことであった。いくら利益や規模が大きくても、石橋を叩く手順を必ず踏むようにしていたのである。

 それくらい慎重に進路を決めていた。その甲斐あって、ディックスクロキは2005年以降も順調に成績を伸ばしていったのだ。

(つづく)

【柳 茂嘉】


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