<アメリカ経済>
2007年の年末。黒木はアメリカの投資家と話をしていた。ロサンゼルス在住でアメリカの不動産市況の変化を感じ、日本で投資活動を行ないたいということから黒木が福岡のビルを2棟売ったことがある、黒木にとっては顧客のひとりだった。その男はこう言う。
「アメリカの不動産市況がおかしくなっている。大きなことが起きなければよいが」
「おかしいとはどういうことですか」
「低信用者向けの住宅ローンがあるのだが、どう考えても、その仕組みが変なのです。これはアメリカ経済が没落しているのを隠すためのカムフラージュなのではないかと思われます」
「誰でも住宅が持てるという仕組みが、何かおかしなことを引き起こしかねないとおっしゃるのですか」
「そうです。ロスの投資家たちも軒並み異常さを訴えています。実際、私のように投資先をアメリカ以外にする人もたくさんいます。何がおかしいと具体的には言えないですが、あきらかに常軌を逸しております」
アメリカでは低所得者のような信用が低い人にも住宅ローンをおろしているということは聞いていた。ローンを組み、貸し出す。そしてその債権をランク分けして証券化する。リスクが高い人、低い人を分けて、そのリスクでポートフォリオを組み広く薄く信用を高める。証券化された債権は多くの投資銀行で取り扱われ、それゆえにアメリカの投資銀行は多くのサブプライムローン債権を有していたのだ。この仕組みが2007年ごろ、破たんしかかっているのではないかという話が出始めたのである。
信用が低いにもかかわらず、貸し付けることは回収できないというリスクを伴う。そして、そのリスクが現実の問題として顕現してきたのだ。証券化された債権は徐々に投資に値する価値を失っていった。一般にサブプライムローンは一定期間(2年程度)が経過した後に金利が上がるようになっている。そのときは必ず来るのだが、借りる側はそんなことお構いなし。したがって破たんする者が出始めたのである。サブプライムローンの仕組みが横一線で始まったために、その破たんも横一線で起こり始めていたのだ。
もっとも当時の投資家たちは市況がおかしいことは以前から気付いていた。サブプライムの問題がどれくらいのダメージを米国全土に及ぼすかは不明だったが、気味の悪さは感じていた。それが2007年の年末には、明らかになりつつあったのだ。黒木はこの話を聞き、いずれ日本にもその余波がくるという予感を持ったのである。ただし、黒木はディックスクロキが破たんするほどのダメージはない、乗り切れるはずと踏んでいた。
【柳 茂嘉】
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