日本経済は1992年から続いた不況からようやく2002年に脱し、2007年までゆるやかながら回復を見せていた。その矢先、アメリカで金融危機が勃発したのである。ローからセカンドにギアを上げようとした日本の出足をアメリカの発達しすぎたマネー理論がくじいたのだ。2007年にサブプライムローン問題が表面化してゆき、翌年になるといよいよ加速しはじめた。2008年3月になると問題が全米を揺るがすほど大きなものであることが分かった。アメリカ5大証券会社の一角を担うベアー・スターンズの破たん危機が明らかになったのだ。5大証券会社中5位ではあるが、それゆえランクアップのために無理な投資を重ねたことが原因だった。
アメリカはまずい方向に向いている。そして、それはもはや打つ手がない。世界全体を巻き込む不況の嵐が吹き荒れるのも時間の問題だ。ベアー・スターンズの破たん危機は象徴的に世界を駆け巡った。アメリカの膨らみすぎた風船がいつ破裂するのか、世界各国が固唾を飲んで見守ったのである。
当然、日本の金融筋でもそれは予見されていた。アメリカの、それも大手の証券会社ですら先行きが怪しいことになっている。これからは何が起こってもおかしくない。国内での引き締めを図り、自己防衛せねばならない。こう考えたのだろう。米国証券会社と大きな取引を重ねている会社、つまりディックスクロキにも、その手が及んだ。2008年4月から金融機関が積極的に口を出すようになってきたのだ。
ファンドの期限がまだ来ていない物件について、建築着工をしないように言ってきたのである。竣工して初めて売買する手順であるから、そのとき工事を始めようとしているものには買い手がついていない状態になっている。土地を開発して、その有益性が証券化の肝であるのに開発をするなと言う。黒木は意味が分からなかった。
開発するなと言っても、しなかったらどうしようもないではないか。広大な土地を遊ばせるだけの資力はない。どうしたらよいと言うのか。黒木は銀行に問い詰める。銀行側は同じ答えを繰り返す。
「とにかく建築のための融資はできません」
【柳 茂嘉】
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