<民事再生申請を相談する>
銀行にも充分かけあった。大手地銀に債務カットや返済ストップ、借り替えなどを申し出たが、ことごとく断られた。
「他行と協議した結果、返済猶予や債務カット、借り換えは難しいという結論に達しました」
それ以降、銀行は個人資産の寄付、具体的な返済期日を迫るだけになってきていた。黒木が弁護士に相談することを決めたのは、こんな背景があってのことである。ちなみに地銀が言うような他行との協議は実際には行なわれていなかったことが後に判明した。もし、ということがあるのなら、もし仮に銀行が黒木の申し出をもう少し真面目に考えてくれたのならば、ひょっとしたら今もディックスクロキは上場企業でい続けることができたかもしれない。けれども、経営とは結果の集積であり、結果は変えることができないものである。もし、などということはないのだ。
弁護士に相談する、といっても当時はすでに噂が広まっていた状態だったため、気軽に福岡の弁護士に相談するわけにはいかなかった。企業の規模が大きかったので、それなりに経験のある弁護士でなくてはならなかった。大分に詳しい弁護士がいると聞き、足を運んだ。
黒木には選択肢が残されていた。ひとつは破産、もう一つは民事再生法の適用である。黒木は後者を選んだ。破産をすると社員に多大な迷惑がかかる。退職金、解雇金が支払えない上に、雇用保険がストップする。雇用保険の支払いができなくなるので、次の就職先を見つけるまでの間、社員が路頭に迷ってしまうことになるのだ。これでは、あんまりである。社のために全力で働いてくれていたことは黒木もよく分かっていた。何も悪いことをしていない、責任のない社員がそんなことになっては、何とも申し訳ない。それだけは避けたかった。そこで民事再生法の申請をすることにしたのだ。民事再生法が適応されたら、企業は債務大幅カットの上、存続することになる。大規模な人員削減などは行なわなくてはならないが、それでも退職金、解雇金を支払うことができる。社員へのダメージが軽減されると考えたのだ。
弁護士には民事再生法を申請したい旨を伝え、弁護士の指示を仰いだ。申請までにやらなくてはならないことを聞き、それに向けて体性を整えることを約束した。打ち合わせを進めていくと、どうしても遠距離の壁を感じるようになった。大分では何をするにも往来の時間がかかってしまう。大分の弁護士に相談して福岡で民事再生に詳しい弁護士を紹介してもらうことにした。
【柳 茂嘉】
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