<民生法申請受理、そして会見>
11月14日、忘れられない一日が始まった。民事再生法を申請することは社として決まっている。そして、その準備も進めてきた。あとは裁判所に書類を提出することと、記者会見を開くことが、この日にやるべきことだった。黒木は株式市場が混乱することを恐れ、市場が閉まる3時過ぎに裁判所へ申請する予定にしていた。12日から株価はガクンと落ちていた。13日も14日の午前中も落ち込んだ。情報を知った誰かが売りに走っているようだ。電話が鳴る。証券取引所関係者からだ。
「株価がとんでもない状態になってしまっている。この事態を収束させるために、何かやるなら早くやってくれ」。
同じ内容の電話が何度もかかってきた。何か。それが暗示していることはお互い分かっていた。黒木は事態を重く捉えて、予定より早く申請を行なうことにした。
弁護士をつれて裁判所に向かう。福岡地裁は福岡市にある。裁判所には顔見知りがいるかも知れない。黒木はタクシーで裁判所に行き、正面玄関を避けて裏口から入った。正式発表まで噂の広がりを抑えたかったからだ。ほんのわずかなタイムラグかも知れない。けれども、これは黒木にとって重要なことのように思われた。
14時40分。民事再生法を申請し、受理された。それによりディックスクロキは裁判所の監督下に入り、弁済を止めることになる。情報を一斉に関係者、マスメディアに送った。負債総額は181億円だった。上場企業の大型倒産は福岡に激震を走らせた。黒木は裁判所を後にし、本社へと向かった。この日に残されている大きな仕事、記者会見のためである。
16時。本社には50名を越えるマスメディア関係者が押しかけてきた。福岡の不動産業として初めて株式を公開したリーディングカンパニーの倒産は、それだけでニュースバリューがあった。米国発の世界不況の影響を受けての倒産劇ということも興味を引いたのかも知れない。黒木にとってメディアの注目をもっともあびたのが、倒産会見というのは何とも皮肉に感じられた。
17時。会見を待ちわびる関係者の熱気の中、黒木は弁護士と取締役とともに会場に姿を現した。
【柳 茂嘉】
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