<嵐の一日>
50名を越える報道陣のなか、黒木は深々と頭を下げた。表情に力はなく、疲れきっていることは誰の目にも明らかだった。黒木とともに同席した取締役も頭を下げる。
「関係者の皆様に多大なご迷惑をおかけすることになり、深くお詫び申し上げます」。
詫びの言葉から破たん会見は始まった。表情には力がなく、悔しさがにじみ出ていた。華やかな道を駆けてきた黒木が初めて経験する大きな挫折だった。
「これから再建に向って社員が一丸となって全力を尽くす所存でございます」。
再生するために力を尽くさねばならない。黒木は報道陣に向かって語るとともに自分へも言い聞かせるように言葉を発した。記者会見はこうして幕を開けた。
黒木は続けて民事再生法の申請にいたる道のりを話した。外資系ファンドの撤退、景気の悪化、金融機関の態度硬化。それによって支払いが滞るため申請した。20日には大きな支払いがあり、その日に申請したのでは関係者に迷惑がかかってしまうため14日を選んだ。このように破たんの経緯を述べた。
続けて再建策へと移る。負債総額は181億円。役員報酬を大幅にカット、黒木は無報酬とする。従業員は半数以上を削減し、再就職の支援は全力でこれを行なう。残ってもらう従業員の給与も10%~30%削減する。営業拠点は福岡以外をすべて閉鎖する。関係者に迷惑をかけるのだから、自分たちが無傷でいられる道理はない。黒木たちが考えた強い痛みを伴う再建案が提示された。また、一般債権者へは通常通り支払う旨も付け加える。
終始、黒木は渋面だった。かつての華やかなイメージは感じられない。ただ、ひとりの夢破れた男がそこにはいた。福岡を代表する不動産開発業者にまで成長した。けれども大きすぎる体が大きすぎる石につまずいた。大きな体が倒れると、とても大きな衝撃が周囲を襲うことになったのだ。
記者会見は終わった。黒木は会見の席を後にする。電話が鳴り止まない。数々のEメールも届いた。その一つひとつに対応する。影響の大きさを改めて感じた。
黒木の携帯電話も鳴り続けた。できる限りの対応をする。すっかり日も暮れて、ようやくひと段落となった。携帯電話を見ると数多くのメールが届いていた。
【柳 茂嘉】
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