野口 孫子
金融危機
投資銀行「リーマンブラザースの破綻」のニュースが世界を駆け巡り、世界経済は一気に大混乱に陥った。株価は短期間で、あっという間に、3分の1まで大暴落した。
欧米では、金融機関同士が疑心暗鬼になり、信用不安をきたし、機能しなくなっていっ
た。
当初は実体経済に影響がないと思われていたが、自動車販売の激減、住宅価格の下落など、あらゆる業種に異変が現れていた。
サブプライムの問題が発覚以来、リーマンなどの投資銀行は不動産投資からの資金を引き揚げており、建設業は1年前から不況に陥っていたが、さらに追い打ちをされたのである。
一方、自動車、家電等の輸出産業はまだまだ活況を呈していた。そこに突然リーマンショックが襲い、輸出の激減で壊滅状態になったのである。アメリカ経済の購買力がなくなり、輸入が激減したのである。
やむなく、各社は生産を縮小、そのため、派遣切りを始め、人員削減が大量に行なわれ、世間を騒然とさせていた。
石油をはじめとした資源も、世界中の生産削減を受け、投資の対象にならないとみた市場が、一斉に売りに走ったため、株価と同様3分の1までに暴落した。
あり余るオイルマネーが湯水のように流入し、沸騰都市ともてはやされていた「ドバイ」からも一斉に投資資金が引き始めたのである。NHKで沸騰都市と紹介されたドバイが、2~3か月後には、クレーンの止まる多数の高層ビル現場や出稼ぎの帰国ラッシュなどに様変わりした姿をテレビは映し出していた。
山水建設の坂本会長は開発事業担当として、
「国内の不振をこのドバイで挽回したい」
と思い、国際部まで立ち上げ逆転を狙ったのだが、ここに完全に夢と潰えたのである。
まだ本格参入まで至ってなかったのが、不幸中の幸いだった。
ロシア進出計画も同様であった。世界一の産油国ロシアに、投資資金が世界中から流入して、モスクワは高層ビル建設ブームを呈していたが、リーマンショックをきっかけに、一斉に投資資金が引き揚げ始めたのである。
坂本の、ここへの進出も夢となったのである。
100年に一度と言われる大不況のなか、山水建設の業績見込みもまったく立たなくなった。月次の決算も前年より大幅ダウンが続いていた。
(つづく)