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経済小説

飽くなき権力への執念 [59]
経済小説
2010年4月 5日 09:59

野口 孫子

経営危機

 実体経済の極度の不振によって、山水建設の業績は深刻になっていた。
 坂本、斉藤は考えられる対策を次々と打ち出していった。
会社の業績は背に腹を替えられない状況になっていたのだ。
 組織の統廃合と社員の「キャリアアップ」という名目で、本社部門から300名を現業部門(リフォーム部門、不動産部門、工事部門)へ「配置転換」した。
 全国に飛ばされ、慣れない現業の仕事についていけない者は退社せざるを得なかった。
 さらに、生産設備の過剰を解消するため、全国展示場の統廃合、老舗の「滋賀工場の閉鎖」を決めた。
 工場の要員の配置転換も、各工場には受け皿は少なく、全国の経験のない現業部門に飛ばされていった。
 ここでも、生涯、工場要員として働くつもりで入社した地元出身者が多く、やむなく退社せざるをえない人が多くいた。
 「会社の危機存亡の時」だからと言われても、体のいいリストラが行なわれていると思う者が多かった。
 そして矢継ぎ早に、昇給の停止、賞与のカット、経費(広告費、出張旅費)の削減、早期退職制度の改定(55歳以上の管理職が対象から、50歳以上の全社員対象へ)の方針が打ち出された。

 山水建設の創業始まって以来、初めての「事業形態を縮小する」経営方針だった。
 斉藤新社長になって初めての決算は、700億の黒字の予定が不動産、株の評価損を出して100億の黒字にとどまったのである。
 役員の任期は2年だが、任期半ばにして、中村副社長から辞表が提出された。中村副社長には以前から「辞めてもらう」と思って、人事部長を通じて、自主辞任を促していたのだ。事実上の解任であった。開発事業の大輪の花を咲かせた中村も追われるように、ヒノキ舞台から去って行った。
 この経営危機を乗り切るのは「社員の一致団結」しかない。
 しかし、社員は冷めきっており、社内には、坂本のお手並み拝見という雰囲気が漂って
いた。
 残念ながら、坂本には経営哲学がない。人望もない。私利私欲に走っている姿を社員が
見ていた。このような状況になって、社員に檄を飛ばしても、もやは、誰も動かない。
 創業者社長山田の言葉を思い出す。
「経営は人なり」
「労使はない、労労だ。社員一人ひとりが社長になったつもりで働いてほしい。泥舟に乗った、運命協同体だ」
 人を大切にする経営を貫いていた。そのため、幾多の危機存亡の時、社員はわが身を会社に捧げ、「無理」をして頑張ったのである。
 山水建設は、その「伝統と底力」を今も持っている会社である。

(つづく)

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