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経済小説

飽くなき権力への執念 [60]
経済小説
2010年4月 6日 10:57

野口 孫子

経営トップの腐敗 (1)

 山水建設の坂本は、副社長の中村を開発事業の担当から外し、自らが担当になった。このことは次のような布石があった。
 中村の土地購入は巨額に上り、それがサブプライム問題から、外資の投機資金の引き揚げが始まり、一転、地価が下がり始めたため、保有土地の新規開発企画の見込みが立たなくなり、巨額の資金が塩漬け、評価損を出す羽目になったことで中村に責任を取らせたと思われていた。
 しかし、新たな事実が判明したのである。
 社債を発行するためロンドンに行った折、証券会社の紹介で、イギリス投資銀行から中東ドバイへの進出話を持ちかけられていた。当時、ドバイは不動産投資が年20%の値上がりを続けていて、大型開発が目白押しだった。
 日本での大型開発事業が全く頓挫していたので、坂本は飛びついたのである。
 それを推進するためには、反対するであろう中村が邪魔だったのである。邪魔な中村を開発担当から外し、自ら担当になったというのが事実なのである。
 坂本は秘かに証券会社の代理人を通じて、まだ設計段階であるドバイの大型プロジェクトに500億を投資した。
 坂本にとっては、山水建設のためというより自分の利益が優先していた。
 東京、大阪の一等地を購入したとき、知り合いの松井不動産という零細な業者を仲介に入れさせ、山水建設から手数料を合法的に取り、その甘い汁を吸っていたという噂が立っていた。
 今回も当然、手数料という名目で莫大な金が支払われていることが想像される。
当然、坂本に莫大な金が流れているとの噂が立ち始めている。
 「大きな金が動くところに坂本あり」という感じで、真偽のほどは定かでないが、坂本には必ず、黒い噂がついて回っているのだ。
 リーマンショックによって、ドバイへの投資が完全に潰えた今、その損金処理をどうするのか、責任はどうするのか。ドバイへの投資も公表されずベールの中に包まれているが、いずれ明らかになるだろう。

(つづく)

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