野口 孫子
経営トップの腐敗 (2)
中村副社長は坂本のドバイへの動きを冷やかに見ていた。
坂本の手のひらを返す仕打ちには辟易していた。あれほど蜜月関係だったことが嘘のようだった。
坂本の自分を無視した態度に接するたびに中村は、2年間の副社長の任期を全うするのは難しいと思っていた。
そんな折
「次回の株主総会で、任期途中ながら辞職してもらいたい」
と坂本の意を受けて人事部長が言ってきた。事実上の解任宣告であった。中村は予測していたので反対もしなかった。
中村はリタイア、故郷で余生を送りたいと、秋田の角館にある武家屋敷の一角に土地を購入していた。
中村も副社長という現役のうちに家を建てたいと思っていた。そこで中村の知り合いで山水建設に出入りの下請け工事店に「在来木造」を依頼し造らせたのである。山水の住宅ではなかったのである。副社長まで上り詰めた中村にも、もはや山水への「ロイヤリティ」はなくなっていた。当然付き合いの深い佐藤造園に豪邸にふさわしい日本庭園を依頼していた。両社には当然、要求はしなくても、便宜があったことは容易に想像できる。
以前に子会社の山水建設工事九州の専務が出入りの下請け工事店に木造の自宅を造らせたことが発覚。売上げに皆苦労をしているのに、
「子会社の役員としてロイヤルティがない」
「地位を利用している」
として、諭旨免職にされていた。
しかし、中村には「おとがめ」はなかった。すでに株主総会は終わり、辞職済みであったのだ。
トップは何してもいいのか!治外法権なのか!
坂本会長、中村副社長、山水の両巨頭がわが利益だけを追求するこの体たらく、会社の頭が腐り始めていると言っても過言ではないだろう。
これら経営者には崇高な理念もない。欲に目がくらんでいるだけである。腐りきったトップや腰ぎんちゃくもいらない。
勇気ある若い社員よ!前に出て叫べ!
「若い世代に道を譲れ!」
手をこまねいていると食い物にされ、取り返しがつかないことになる。
正義感のある若者よ、山水建設のよき社風を取り戻せ!
(つづく)