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経済小説

飽くなき権力への執念 [62・終]
経済小説
2010年4月 8日 09:30

野口 孫子

エピローグ

 創業社長の山田が創り上げた「家族的で、暖かみのある会社風土」の伝統も、坂本の出現で、無くなってしまった。坂本のお気に入りの情実人事とゴマすりが横行。それらが重用される会社になり下がっていた。そうなってしまえば、会社の業績はつるべ落ちである。
 この大不況に全く対応できないことがはっきりと示された。
 「業績が悪いのは大不況のせい」としているが、福岡本社のマルホームは全国展開し、局面ではナンバーワンになり、山水建設の親会社の山水工業建設事業部九州販社において、戸建部門で、先発の山水建設を追い越し、ナンバーワンになったことを祝し、社員全員に、ご祝儀が配られた。
 坂本の就任前は山水建設のガリバーで、他の追随は全く考えられなかった。しかし就任10年で様変わりしていた。ジワリジワリと、いつに間にか、山水は弱体化していたのである。
 坂本はこの事実も知らず、不況のせいにしていた。また、「よき伝統、社員のやる気」を失くさせたことを忘れ、過去の成功体験を振りかざし、「幾多の困難を乗り越えた実績がある。頑張れば乗り越えられる」と檄を飛ばしている。時代は予測不能にも関わらず、である。

 自分たちは高い報酬をもらいながら、宝石を体中にジャラジャラとつけ、飽食に明け暮れ、「生き残りをかけた存亡の時」と叫んでも、まるで、ベンチに寝転びながら、社員におねだりをしているようなもの、緊張感も見られない。
 坂本に山水建設の未来を託しても無駄かもしれない。リーマン、GM、クライスラーの経営者のように莫大な報酬を取り、ひと財産を作り、会社を倒産または寸前まで持っていった。これをオバマ大統領は「強欲」と非難した。
 坂本がどれほど立派な肩書きを持ち、名誉ある地位についても、人間である以上、神ではない。
「自分だけは特別で、いつまでも現役で居られる」
 と思うのは大間違い。山水も半世紀の間、稀に、発展をつづけてきただけ。永遠の繁栄はないのである。坂本の傲慢さによって、すでに前述のように、後発が追い上げ、衰退の兆候が表れている。
 人口減少、地球温暖化、経済の不安定、テロ等先行きの不透明の時代、誰も経験したことのない困難が待ち受けている。
 老将が居座り続けることが、亡社への一途をたどることになる。
 老将よ、奢るなかれ!勇気ある、若い社員よ、前に出て、叫べ!
「若い世代に道を譲れ」
 と。
 「高い品性と徳」を備えた経営者であれば、人が魅了され、その経営者のビジョン、夢、使命感に同調し、社員は進んで無理ができる。
 これから遭遇するであろう、未知の困難にも、無理ができるのである。
 それが競争力の源泉であろう。
 山水建設が今後どう生き残るか、ドラマが続く。
 後日記述する機会があれば、光栄に思う。

(おわり)

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