2012年、50年以上に渡って地元の人から愛され親しまれてきた幼稚園がなくなる。学校法人筑紫海学園が運営する「香椎幼稚園」は、「公立大学法人 福岡女子大学(以下、福岡女子大)」の改築に伴い、同大学から現在借りている土地を返還することになった。その後、同幼稚園を運営する法人理事会は、「閉園する」意思決定をしており、これに反対して、子どもを通わせている保護者を中心に「香椎幼稚園 維持存続運動委員会」が結成された。
大学と幼稚園、どちらも教育施設である。県は事実上、大学教育を優先し、幼稚園を犠牲にすることを選んだ。存続委員会は、存続を願う"6万人の署名"を集め、福岡県議会に陳情も行なった。しかし、「香椎幼稚園は私立であり、土地の返還は運営する理事会と大学側との間の問題だ。また、閉園を決めたのは運営サイドであり、第3者は口をはさめない」との冷たい反応があった。
しかしながら、同幼稚園を運営する学校法人は福岡女子大の卒業生で構成されており、その事実も含めて考えると、女子大側が一方的に「閉園」に追い込んだとも言える。また、同幼稚園を運営する法人には負債がなく、逆に約2億円の資産がある。閉園した場合、福岡女子大へこの資産が渡ることになっている。
この資産の多くは、借地を利用してきた同幼稚園が移転するために蓄えてきた資金であり、原資は保護者が納めた教育費であること、また、税が優遇される学校法人という立場上、間接的に国民の税金が投入されて貯まったものであることを忘れてはならない。ちなみに、法人解散後に資産の引き取り手がない場合は、"国庫へ返納"することが定められている。
以上が閉園に至る大まかな経緯(詳細・根拠については「関連リンク」を参照)であるが、香椎幼稚園について取材を進めるなかで、本質的に重要なことが分かった。
それは、同幼稚園の存続を願っているのは、多くが保護者や地域の住民であるということ。そもそも「香椎幼稚園」は、女子大の卒業生が"地域への恩返し"として設立した。長年続けられてきた教育は地域密着型であり、香椎、香住ヶ丘、香陵の3つの小学校区には、親子2代で幼稚園のOBという家庭も珍しくない。
また、周辺の他教育機関との連携も行なっており、小学校の教員が初等教育について、入学前に担当していた幼稚園の先生に相談することもあるという。教員希望の大学生が、園児に「食育」を行なうカリキュラムもある。約半世紀のなかで細かな修正も加えながら続けられてきた教育は、地域住民を中心に多くの人が認めているところだ。
地域住民から愛され、保護者からも高い信頼を得ている幼稚園。その現場では、どのような教育が行なわれているのか。その点を知らなければ、香椎幼稚園が今ある地域のなかで存続を求められている理由は分からないだろう。そこで次回(31日予定)から、現場の教育を監督している香椎幼稚園・田北園長への取材をもとに、同幼稚園の教育の特色を紹介していく。
【山下 康太】
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