<非難の嵐吹き荒れるなか、人の情を知る>
記者会見後、反響は大きかった。陽が充分に暮れるまで電話は鳴り続けた。親しかった人からも、そうでない人からも連絡が入った。協力会のメンバーからも連絡がきた。
「こんな理不尽なことがありますか。私はどれだけの痛手をこうむればいいのですか。あなたのせいで大変ですよ」
これは長年、ともに仕事をしてきた協力会のメンバーからの言葉である。黒木はショックを受けた。たしかに民事再生法を申請するということは多大な迷惑を関係者にかけることになる。それは間違いないのだが、仲間からの言葉は、さすがに堪(こた)えた。同情してほしかったわけではないし、優しい言葉が必要だったわけでもない。けれどもただ心に鈍痛が走る思いがした。協力会メンバーだけではない。非難の声が多く寄せられた。それも仕方がない、それだけのことをやることになってしまったのだ。電話が鳴り止む頃には黒木は疲れきってしまった。
泥のように疲れた黒木は携帯電話に目をやった。数十件のメールが届いていた。非難のメールもあったが、なかには優しい言葉に満ちたものもあった。仕事を通じて知り合った新聞記者は次のような言葉をくれた。
「黒木会長、お疲れ様でした。あなたがやってきたことは不動産業者に大きな勇気と夢を与えてくれました。不況の波を乗り切ることはできませんでしたが、あなたがやってきたことは尊敬に値します。お疲れ様でした。少しお休みになって、鋭気を養ってください」
黒木はこのメールを読み、とても励まされた。今、ちまたでは誹謗の嵐が吹き荒れていることだろう。そんななかでも見てくれている人はいる。なんとありがたいことだろう。このような状況下で黒木とコンタクトをとっても、経済的な見返りは望めないだろう。けれども人としての情から声をかけてくれる人もいるのだ。黒木は心の底から感謝をした。ほかにも励ましのメールが届けられていた。ひとつひとつ読み、それが疲れきった黒木に活力をくれた。ありがとうの言葉しか浮かばなかった。
受信メールを確認していくと、そのなかに長男からのメールがあった。発信された時間を見ると記者会見が終わってすぐだった。
【柳 茂嘉】
*記事へのご意見はこちら