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企業、人 再生シリーズ

黒木透・再生への道(67)(完)
企業、人 再生シリーズ
2010年5月 7日 10:13

<再起を目指して>

 家族に今回の破たんについては一切伝えていなかった。どんな言葉が長男のメールにつづられているのか、黒木には想像ができなかった。緊張しながらメールを開く。息子の言葉に驚いた。いつの間にか大人になっていたことを感じ、なんとも言いえぬ感動がわきおこってきた。息子は地銀への就職を希望していた。破たんを記者会見で知り、希望する就職は適わなくなったことを知ったに違いない。さらにひょっとしたディックスクロキへの就職も考えていたかもしれないが、その道も断たれたと感じたはずだ。けれども、文面に怨嗟の情は一切なかった。ただただ疲れた父をねぎらう言葉で満ちていたのである。

倒産直後の記者会見での黒木氏 このメールのおかげで、破たん発表後も処理にまい進することができた。債務の整理も相手のことを第一に考えて、できるかぎりのことをした。その結果、連鎖倒産を発生させることはなかった。支援企業も見つけて、ディックスクロキの看板を残すこともできた。できる限りのことをやり、黒木はディックスクロキを去ることになる。

 現在、黒木は新たな会社「株式会社DIPRO(ディプロ)」を立ち上げ、再び頂点を目指し歩みを進めている。黒木は、福岡の不動産業の天井を一段引き上げた功労者であることは間違いない。破たんという劇的な最後は福岡に大きな波紋を広げた。けれども、それは地元における黒木の存在の大きさの裏返しでもある。柱を失ったような喪失感が激震を走らせたのだ。今後、新たなヒーローが現れることだろう。大きな破たん劇もあるだろうが、その背後には様々な人の物語があるということを、忘れてはならない。

 最後に、黒木に再起の力を与えた長男のメールを原文のまま紹介し、このシリーズを終えることにする。

 「テレビで記者会見を拝見致しました。
今まで怒涛の20数年だったと思います。
お疲れ様です。
民事再生することになって会社を立ち上げて今まで獅子奮闘してきたお父さんは、込み上げてくるものがあると思います。
でも息子の私にとってお父さんはやっぱり偉大であり、素晴らしい人でした。
今まで私に経営者という生き方を背中で語ってくれてありがとう。
お父さんを越えることはできないかもしれないけど、私も自分なりの道に突き進みお父さんに近づけるように頑張っていきます。
会社の残りの仕事が終わったら、これからはのんびりお父さんのしたいことをしてください。
本当にお疲れ様でした。尊敬の意を込めて
今はダメ息子より」

(了)

【柳 茂嘉】


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