NetIB NEWSでもたびたび取り上げてきたロボット開発企業(株)テムザックが、今年に入って多くのマスコミに注目されている。以前からユニークなロボットの開発で知られていたが、今何故大きな注目を浴びているのか、その真相に迫ってみた。
自律型ロボットの有益性と実現性が見えてきた
今年2月14日にTBS「情熱大陸」、5月6日にテレビ朝日「報道ステーション」でテムザックと社長高本氏の特集が放送された。今後もTBS「情報7DAYS」、NHK「ニュースウォッチ9」やテレビ東京でも特集が組まれ、雑誌「アエラ」や新聞各紙で記事が掲載されるとのことである。
財務的には厳しい経営状況であるテムザックが、どうして日本中のマスコミに注目されるのか。そこには、テムザックが海外と提携して具体的に市場化が見えてきたことと、将来性のある産業の育成を妨げている日本の閉鎖された社会環境に対する危機感を煽りたいマスコミの狙いがあるようだ。
「情熱大陸」も「報道ステーション」も高本社長の個人ドラマとして、亡くなった奥さまとの関係でロボット作りを始めたことが主題となって構成されていたが、感傷的なストーリーとは別に、やはりデンマーク政府がテムザックのロボット導入を検討しているということが報道価値としてあったようだ。
ところで、デンマークはすでに筑波のサイバーダイン社のロボットスーツの試験的導入を発表しているが、ロボット工学や医療関係者にヒアリングしてみると、筋電位に反応して動くロボットスーツは着用に非常に時間がかかり、着用者個々の筋電位データも差異が大きく、実用化は疑問であるとの声が多く聞こえてくる。実際、発表から1年以上が経った今でも、デンマークでの具体的導入の実例や結果が伝わってきていない。
一方、デンマーク政府が導入を検討しているテムザックのロボットは、見守りロボット「ロボリア」と乗り移りの簡単な電動車いす「ロデム」である。ロボリアはすでに日本国内で1,500台以上販売されており、一人暮らしのお年寄りを離れて住む家族が見守れる実用ロボットとしての実績がある。
福祉先進国のデンマークでは、高齢者は施設に押し込めるよりも、自立して一人暮らしできる支援政策をとっており、いつでも一人暮らしの高齢者を見守れるという安心感と、巡回介護する人の負担軽減がロボリア導入の狙いであるとしている。デンマーク政府関係者によると、デンマーク国内だけで2万台から3万台のロボリアの市場があるという。
ロデムに関しては、自転車道の整備されているデンマークで、高齢者や障害者が介護者の助け不要で外出機会を増やせることが期待されているようだ。
アニメ的なパフォーマンスでは話題の多いロボットスーツだが、具体的にロボット技術として生活に役立つかと言うと疑問が残されるのに対して、テムザックのロボットはすぐに実用に供されるレベルに達している。
昨年テムザックは、九州大学医学部の橋爪教授と医療介護向けのロボット開発を行なうベーダ国際ロボット開発センターを設立したが、介護分野の専門家がロボット開発に加わり、利用者サイドのニーズをつかんだ開発を進めることができるようになったことも大きなポイントだろう。
この数年いろいろな企業や研究機関がロボットを発表してきているが、そこでさまざまな取材を重ねてきたマスコミ各社は、以上の状況からテムザックのロボットが実際の社会に役立ち、初めてビジネス市場に乗るまで成熟してきたものとして評価しているのだろう。
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