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特別取材

日本中のマスコミが今、テムザックに注目する理由を探る(下)
特別取材
2010年5月11日 08:00

日本が立ち遅れるグローバルスタンダード化

 マスコミがテムザックに注目する第2の理由は、日本政府の次世代産業政策の立ち遅れが、自律型ロボット分野でとくに顕著に現れているからだろう。
 出口の見えない日本経済で、将来世界的な競争力を持つ可能性があると言われている自律型ロボットであるが、今のままの日本政府の産業育成政策では、技術を持った企業や研究者が海外に流出してしまうという危惧を多くのマスコミが感じ取っている。
 半導体開発でせっかく先進の研究を行なっていた日本の技術者が海外に流出し、韓国など海外の企業が市場を席捲してしまった実例がある。
 テムザックを含め日本国内の自律型ロボット開発に携わる研究者と企業は、世界でも有数の先端技術の集積を行なっているが、財政的にはどこも非常に苦しく、積極的に研究を進め難いのが実情だ。
 一方、ギリシャ危機で揺れるEUだが、2010年度のロボット開発予算は約1,000億円だと言われ、将来的な成長分野には本気で投資を行なっている。

 問題は、財政面での支援が弱いだけではない。
 ロボットの実用化には、法整備を含めた社会での実用実験や運用基準作りが必要となってくる。ロボットの「グローバルスタンダード作り」である。
 テレビ朝日「報道ステーション」でも伝えられていたが、日本国内で介護ロボットを街中で運行する場合、厚生労働省、国土交通省、総務省、警察など多くの省庁それぞれに合わせて基準作りが必要となり、大変な時間と実用試験のための膨大なコストがかかってくる。
 テムザックがデンマーク政府との提携に飛びついたのは、新しいロボットの運行基準や安全基準作りをデンマークが国として支援するという方針が大きかったという。今後、テムザックとデンマーク政府のプロジェクトが実現すると、ロボットの運行や安全は、デンマークがグローバルスタンダード作りの本拠地となる可能性が高くなる。
 そうすると、ロボット開発の優秀な研究者や企業は自然にデンマークに集まっていく。人口550万人の小国であるデンマークであるが、国家としての産業政策がそこにはっきり見えてくる。
 マスコミも先端技術を海外に出すことを願っているのではなく、今の日本の縦割り行政、法体系など次世代産業の育成には時代遅れになっていることを、テムザックの例を通して訴えようとしているのだろう。
 せっかく日本が技術でリードしている自律型ロボットで、グローバルスタンダード作りでも世界をリードできる体制を作り上げることは、日本の行政と政治家の責任であることは間違いないし、それを怠れば有力な企業や研究者の海外流出が続き、競争力のある産業育成どころでなく、日本という国は後塵を拝することとなる。
 現場の個々の官僚はこうした危機感を持っているが、残念ながらそれを統合して国の戦略的政策とする仕組みと、それを解決する道を作るべき問題意識を持った政治家がいないのが日本の現状である。

さまざまな分野の国際的な先端研究者が集まるベーダセンター 玄界灘に面する自然豊かな環境ながら、交通不便な場所でわずか20数名のスタッフによりロボット開発を行なっているテムザックだが、インテグレーション(統合)技術である自律型ロボットに必要なさまざまな分野の先端研究者とのネットワークは、日本のトップ研究者だけでなく海外の研究者ともつながっていてロボット開発企業でも群を抜いている。
 日本の自律型ロボット産業の鍵を握る「テムザック号」の高本社長が、次にどのように舵を切るのか、今後も注目していきたい。

(了)


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