<地域資源を活用して活性化を果たした事例>
地域においてマーケティング展開を(結果的に)行ない成功した事例についてお話しします。佐賀県太良町に竹崎カニで有名な大浦漁業協同組合という漁協があります。そこへお話を聞きに行ったとき、「漁業の後継者問題は大変でしょう?」と聞きましたら、「いや、うちでは後継者問題はありません」というひと言。一緒に行った一同(某町の地場産品開発関係者)びっくりです。竹崎カニは、品質管理に独特の工夫(捕獲したらすぐにはさみの先の一部を切り、甲羅に傷をつけずに長時間保存できるようにする)を行なっており、水揚げされた竹崎カニは、地元のカニ旅館10軒くらいがすぐに引き取ってくれるのです。販売先もしっかり確保されています。さらに資源管理のために、ワタリガニの稚魚を養殖し毎年放流しています。ワタリガニというだけにカニ達は放流するとどこへ行くかはわかりませんが、「まあ、有明海を渡って福岡県側に行ってもよかっちゃなかと」とのおおらかな答えです。
品質管理、販売先の確保、資源の保護、流通ルートの確保、カニ旅館で良い価格で売れるという価格の安定化。まさにマーケティングの4Pの要素を見事に担保し、マーケティング・ミックスを行なっています。地域資源を見事に活用し、漁業という若者の就業の場を確保している事例です。ただ、その後タイラギ漁の不漁などでこの漁協も大変だったようですが、タイラギも戻ってきたそうで、陰ながら安心しております。
次は、四国徳島県の上勝町の事例です。これはテレビなどマスコミでも紹介されており、「そうだ、葉っぱを売ろう!」(横石知二著、ソフトバンク クリエイティブ社)という本でも紹介されていますので、ご存知の方も多いでしょう。この横石氏の講演が1月に福岡であり、私も聞きに行きました。もちろん本も読んでおり、テレビも見ています。この講演が大変感動的でした。聴衆は観光関係や役所、諸団体の方々ですが、なかには涙を流している方もおられました。横石氏の努力、街の方々の熱意が伝わってくるのです。横石氏は上勝町農協の職員から町の職員になり、今では第三セクター株式会社「いろどり」の副社長。身体を壊すほどの努力なくして今の上勝町の「つまもの」の商品化はあり得なかったでしょう。要は、徳島県の山村で何もない上勝町の「ハッパ」を商品化し、全国ブランドに仕上げたのです。
きっかけは、横石氏が大阪の寿司屋で食事をしていた際に近くにいた若い女性が「つまもの」のもみじを見て、「これかわいー、きれいねー」「水に浮かべてみても、いいわねー」と喜ぶ姿に接して、「そうだ!葉っぱを売ろう」とひらめいたのです。モミジなどの葉っぱ(つまもの)は上勝町にはいやというほどあるが、誰もそんなものに価値があるとは思いもしない。しかし、これが素晴らしい価値を生むのです。少し見方を変えるとよその人が見たら素晴らしい価値がある、そんな事例が身近にないでしょうか。これが「地域づくりにマーケティング発想を!」でもあります。
さらに横石氏の素晴らしいところは、ITを積極的に取り入れたところです。70歳代、80歳代のおばあちゃん(おじいちゃんは少ないのです)に使いやすく工夫したPCを使わせて、市場の要求に素早く対応できる体制をつくり上げたのです。まさに情報化時代の先取りです。これらの活動の結果、上勝町では年間1千万円クラスの収入を得るおばあちゃんがたくさん出てきているそうです。素晴らしいことだと思います。さらに、近年では、東京などの都会から若者が次々とこの上勝町に移り住んでいるというではありませんか。若者とおばあちゃんが、地域の活性化を果たしているのです。
次は、糸島市に07年4月に開設されたJA糸島が運営する農産物直売所の「伊都菜彩」の例です。売場面積384坪、駐車場台数400台、月間来場者数9万人という大規模農水産物直売所です。年間売上は、07年度18.7億円、08年度21億円と日本一の直売所とも言われています。JA糸島がこの直売所を開設した狙いは、(1)女性農業者への販売チャネルの提供、(2)農産物のブランド化、高付加価値化、農業生産技術の確立、(3)糸島農産物のファンづくり、対象は福岡都市圏住民、(4)食の拠点として次世代の糸島農産物ファンの育成、とされています。では、なぜこれほどまでに成功したのでしょうか。その成功要因については次回にお話ししましょう。
(株)地域マーケティング研究所
代表取締役 吉田 潔
福岡市中央区天神4-9-10 正友ビル5F
TEL:092-713-2121
URL:http://www.mrkt.jp/
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら