<昇給しない給料>
福岡市内のある介護施設を例にとってみよう。同施設は市内でデイサービスとグループホーム、住宅型有料老人ホームを運営している。老人ホームの入居金は14万円弱で、家賃は4万円半ば。同施設で最も高い賃金を得ているのは、ケアマネージャーの25万円。続いて社会福祉士の22万円、介護福祉士の19万円前後、社会福祉主事の18万円、ヘルパーの16~17万円と続く。今一番の悩みは、「スタッフの処遇」だと断じてはばからない。「問題なのは、決められた介護報酬のなかでやりくりせざるを得ず、給与が何年間も変わらないこと」だとする。家庭を持ち、子どもが生まれ、その子どもが進学する。「とてもじゃないが、介護スタッフは将来に夢を描けない」。
厚生労働省は今年10月より、介護職員処遇改善交付金「キャリアパス」制度を導入する。同制度も「介護報酬プラス改定」「介護職員処遇改善交付金」同様に、介護人材の確保・定着を図るための施策の1つである。同制度を申請した場合、一定条件を満たした要件とキャリアパスの導入が必須となり、要件を満たせない場合は減額対象となると言われている。そのため、小規模事業所などではキャリアパス要件を満たすことができず、申請を見送っているところもあるという。
前出の事業主は、「導入といっても具体的な要件がはっきりしないため、給与を上げたくても上げられない状況」と冷めた見方をしている。
厚労省の諮問機関である社会保障審議会は、先月、2012年度の診療報酬・介護報酬改定に合わせた制度改正論議を開始した。そこでは、介護保険の公費負担増や被保険者の対象拡大などが論議の焦点になるとも言われている。我が国の介護保険制度は、散発的な弥縫策に終始するのではなく、今こそ抜本的な見直しが問われているのかもしれない。
【田代 宏】
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