◆上海万博訪問が鳩山退陣の花道
鳩山首相の退陣は避けられそうにない情勢になってきた。
「国家国民のために、3人で力を合わせて頑張ろうと打ち合わせた」
鳩山首相は5月31日の小沢一郎・幹事長、輿石東・幹事長代行(参院議員会長)との短い会談後、続投を確認したことを強調した。しかし、実際には、「会談では輿石氏が参院選の厳しい情勢から、首相の自発的辞任を求める声が高まっていることを説明したが、鳩山首相は退陣を拒否した」(官邸筋)というのが真相だ。
それでも、首相に逃れる道はすでになくなっていた。
小沢氏は3者会談後に党役員会を召集して今後の対応に一任を取り付け、民主党内では首相退陣に向けた"鳩山包囲網"が敷かれた。退陣を認めたくない首相は温家宝・中国首相の来日中にもかかわらず、急遽、口蹄疫に苦しむ宮崎行きの日程を組み、6月1日には東京から逃げ出した。
民主党執行部の1人はこう断言する。
「鳩山首相は6月12日の上海万博・日本デーに合わせて中国を訪問する。温家宝首相はその要請のために来日した。外交儀礼上、正式な退陣表明は上海からの帰国後になるだろうが、決断は今週中にしてもらう。どうせこのままでは1か月後の参院選に大敗し、引責辞任することになるのだから、いま辞めても退陣が1か月早まるだけだ。鳩山さんに選択の余地はない」
せめてもの《上海万博花道論》である。
◆「自治労トリオ」が首切り役
急転直下の"鳩山おろし"は、民主党と社民党の「自治労トリオ」による連携プレーで進んだ。引き金が、普天間基地移設の閣議決定をめぐる社民党の連立離脱だったことは言うまでもない。
最初に声をあげたのは離脱したばかりの社民党だった。31日の国対役員会で、重野安正・幹事長ら幹部が、鳩山内閣の不信任案や問責決議案が提出された場合には賛成する方針を決定した。衆院で300議席以上を占める民主党は、内閣不信任案は楽々否決できる。問題は参院での首相問責決議案への対応だった。
社民党が連立離脱したいま、参院での与党勢力は過半数ギリギリの122議席しかないうえ、民主党の参院議員には改選組を中心に「鳩山では参院選を戦えない」との声が渦巻いている。
参院に首相問責決議案が提出され、採決で民主党から2人の欠席者がでれば、問責が可決される。
「社民が問責賛成の方針を決めた段階で、事実上、首相の続投の目はなくなった」(民主党役員)
それを待っていたように民主党から高嶋良充・筆頭副幹事長が、「非常に深刻な事態に陥っている。事態打開を参院側から要請したい。どのような形で対応されるかは首相の決断にかかっている」と、公然と首相辞任要求を突きつけた。
緊急事態に、冒頭の鳩山、小沢、輿石の三者会談が召集されたのである。
止めを刺したのは社民党の又市・副党首だ。
「(退陣の決断は)明日か、明後日だと思う。首相がけじめを付けないと、参院選で民主党はたくさんの候補者を引き連れて討ち死にする。そんなことは、選挙の神様と言われる小沢氏が読んでいるだろう」
流れは決まった。口火を切った社民の重野氏、"首取り役"の民主・高島氏、止めを刺した社民・又市氏はいずれも自治労出身。3人の背後で"鳩山おろし"にゴーサインを出したのは参院選で議席維持が危うくなっている民主党の"参院のドン"輿石氏と見られている。
◆小沢を怒らせた官邸のKYぶり
気になるのは、小沢氏がどの段階で「鳩山更迭」を決断したかである。
「普天間の閣議決定の前夜、小沢幹事長は総理に、"連立を壊すべきではない"と忠告し、社民党の重野さんと又市さんも連立離脱を回避しようと懸命に福島瑞穂を説得した。福島は頑に閣議決定への署名を拒否したから、小沢幹事長は福島罷免まではやむを得ないと考えていた。
それでも、総理や官房長官は、連立維持に失敗したことで小沢幹事長が苦労して築いてきた与党3党の選挙協力体制を壊したのだから、当然、執行部に経緯を説明して理解を求め、善後策を協議すべきだろう。しかし、官邸は報告もなく知らんふり。"社民党を切り捨てた方が支持率があがる"なんて能天気なことを言う閣僚までいた。その危機感のなさに小沢さんは怒り、輿石さんら参院側の鳩山おろしの動きを、"それもやむなし"と判断してストップをかけなかった」
こうして鳩山官邸は見限られたのである。
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