「10年辛抱してきましたが、もう限界かもしれません」と、(株)テムザックの代表取締役・髙本陽一氏は沈痛な面持ちで語った。日本だけではなく、世界中のマスコミから注目を集めている同社は、自律型ロボットのパイオニアとして世界一の技術を持っている。しかし今、資金難から海外への本社移転を余儀なくされているという情報が入った。
これを捨てては置けないと、福岡4区選出の民主党・古賀敬章衆議院議員が救いの手を差し伸べるべく、髙本氏に内情を聞くため対談を行なった。本稿は同対談で明らかになった、同社を取り巻く現状と技術の海外流出が招く危険性について論じたものである。
<海外から多数のアプローチ>
テムザックのロボットが世界中の注目を集めてきた理由には、その高い技術のほかに、採用した技術の扱い方にもある。
「ロボットは『総合技術』である」と、髙本氏は説明する。同社が開発するロボットの各パーツには、医学を含めさまざまな最先端技術が結集している。
現在、同社には世界各国の大学や研究者から技術の売り込みが殺到しているが、同社は採用した技術に関してはその提供元を明らかにしている。技術提供先を伏せ、すべて自社開発であるかのように振る舞う企業が多いなか、あくまでも『総合技術』としてロボット開発を行なう同社。その評価は高まる一方であり、同社への就職を希望する外国人学生も多いという。
実際に、海外メディアや外国人の研究者、学生などが頻繁に同社を見学に訪れている。同社がある宗像市のタクシー会社では、同社見学後に宗像大社や沖ノ島関連遺跡郡を見学する外国人向けのパック・ツアーを用意しているほか、タクシー運転手は同社について勉強しており、簡単なガイドができるという。それほどまでに、同社を訪れる外国人が多いということである。
テムザックの移転誘致に積極的なのは、シンガポールとデンマークだという。どちらも人口500万前後の小国だ。人の数では福岡県と同じ規模である。また、日本と同様に天然資源も無い。その2国が、新たな産業の柱として目を付けたのがテムザックのロボットである。特にデンマークは、ラスムセン首相自らが音頭をとってアプローチをかけるほどの熱の入れようだ。テムザックの技術力を高く評価し、国家戦略の構想のなかに同社のロボット産業を組み込んでいることの表れとも言える。
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