<成功事例を気にする日本>
世界がテムザックに厚い期待を寄せる一方で、同社に見向きもしていないのが日本政府である。何とも皮肉な話だ。そうした現状を髙本氏は、「5億でも資金援助があれば、間違いなく日本は世界一のロボット技術国になれるはずです」と嘆いた。
先日、同社は「株式会社 産業革新機構」へ支援を申し入れたという。同機構は、2009年7月、政府が820億円、民間企業16社が80億円を出資し、総額905億円の資金規模で設立された。革新性のある事業などに対し成長資金を提供、経営参加型の支援を行なうことを目的としている。そして、同機構が金融機関から資金を調達する場合、政府保証で8,000億円まで引き出すことが可能。つまり、"9,000億円の投資能力"があることになり、同機構自身もそのことを強調している。
"ベンチャー企業のための支援組織"のはずなのだが、同社への返答は「(支援決定には)2、3年はかかる」という冷たいものであった。
日本における事業投資の姿勢について髙本氏は、成功事例がないものには金を出さない傾向があることを指摘する。「歴史上、日本は明治以降、2番手で技術を伸ばし成長してきました。そのなかで、現在の傾向が生まれてきたように思えます。融資を申し出ると、必ずと言っていいほど"成功事例"を聞かれます。しかし、これではベンチャーは決して成長しません。一方、海外ですと二番煎じの技術を冷ややかな目でしか見ない。未知の分野で切り拓いていく人だけが、評価を得られるのです」。
<軍事利用の可能性>
世界と比較すれば、最新技術への日本政府の対応は"論外"と言っても過言ではない。ほとんどの国は、優れた最新技術をまず軍事利用するところから考える。そもそも技術開発は、軍事利用を主目的に行なわれていると言っても過言ではない。したがって、莫大な軍事予算から技術開発の資金が捻出されるのである。その点で、現在の日本政府はどうしても他国に劣ってしまう。
およそ軍事に詳しくない人でも、どの国もまだ所有していない兵器があれば戦争を有利に進めることができる、ということは想像に難くないはずだ。その意味でも、同社が開発している自律型ロボットは軍事利用される危険性をはらんでいる。いかなる戦場でも、人間の兵士にとって最大の敵とも言える「恐怖心」を感じないからだ。
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