<使途は事業者任せ>
昨年改正時の介護報酬改定の第一の目的は、「介護従事者の人材の確保」「介護従事者の処遇改善」だった。たとえば、介護従事者の専門性のキャリアの評価とか、地域間の格差是正という点に3%アップの保険料を充当しようというもの。つまり、一律3%アップということではなく、さまざまな加算が考えられていた。事業者にとっては、サービスの提供の仕方で、改定の影響の大小が生じるということである。
たとえば、資格を持った専門のスタッフや経験を積んだ職員が多ければ、報酬としては上がりやすくなる。通常ならば100円だったものが105円にアップするため、通常よりも高い報酬が得られることになる。
しかしながら、これはあくまで事業所の収入としての話で、事業所で働く個々の介護職員の給与に必ず反映されるというわけではない。給与に関しては、あくまで労使間の問題の範疇で、事業運営のやり方によって事業所ごとに異なるものとされている。報酬アップを給与面で反映させるのか、それともサービス面で質の向上を目指すのか、職員のスキルを磨くのか、さらに職員を増員させるのか、介護機器を購入することで職員の負担を軽減させるのか--最終的な判断は事業者側に委ねられている。行政サイドに立てば、介護報酬を上げることにより事業者にメリットをもたらすとともに、サービスを受ける側にも同様にメリットが生じるはず、という考え方に基づいた制度である。事実上、介護スタッフの処遇は置き去りの格好だ。
介護報酬の加算要件は、事業所の規模によって違ってくる。何しろ数十種類あるといわれる介護サービスのなかで、事業所の規模により膨大な数にのぼる。たとえば通所介護(デイサービス)では、介護福祉士が40%以上配置されていること、訪問介護では3年以上の勤続年数のある者が30%以上配置されていること―などが加算の要件となる。
そもそも09年4月に行なわれた介護報酬改定は、介護職員の給与を月額2万円アップするという名目のもとに、当時の自公連立政権がとった施策だった。ところがフタをあけてみれば、実際の賃金改善は理想にほど遠かった。さらに、同年10月には緊急雇用対策として月額1万5,000円アップを目指し、介護職員処遇改善交付金なるものが支給された。これは、介護職員の処遇改善に取り組む事業者に対して、2012年度末までの間、介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均1万5,000円を交付するというもの。にもかかわらず、介護スタッフの処遇改善に目立った効果はみられなかった。ほとんどの施設が、介護報酬の上乗せ分を経営改善の費用に転用してしまったからだ。
【田代 宏】
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