日本銀行は先般、金融政策決定会合を開き、成長分野への投資や融資をうながすため民間銀行に超低金利で融資する新貸出制度を決めた。この制度は、日本経済の成長基盤を強化するため、環境やエネルギー等の分野に融資する金融機関に政策金利(現在、年0.1%)で総額3兆円を貸し出すものである。
<日本経済の現状>
日銀短観(6月調査)による日本経済の現状は、以下の通り。
■売上高
全規模の2009年度売上高は、前年度比▲12.6%。そのうち製造業は同▲12.8%、非製造業は同▲12.4%。全規模の10年度売上高計画(修正計画)は、全産業が+3.3%、製造業が+5.5%、非製造業が+2.3%と下げ止まる計画である。
■経常利益
09年度の経常利益は、全規模全産業で前年度比▲4.3%。そのうち製造業は同▲4.7%、非製造業は▲4.0%。10年度修正計画は、全規模全産業で前年度比+19.7%、うち製造業は同+45.0%、非製造業も同+7.5%となり、増益に転じる見通しである。中小企業(全産業)の09年度経常利益は、前年度比▲0.4%。10年度修正計画は+17.2%と増益に転じる見通し。
■資金繰り
企業から見た金融機関の貸出態度判断DI(「緩い」-「厳しい」)は、全規模全産業で0まで改善。規模別に見ると、大企業は+7。08年12月調査以降、5期連続でマイナスとなっていたが、前回調査(3月)以降2期連続してプラスで推移している。一方、中小企業は▲6。DIは上昇しているものの、その幅は小さく、8期連続でマイナスとなっている。
■生産設備・設備投資
10年度の設備投資の修正計画は、全規模全産業が前年度比+0.5%、同中小企業が同▲15.5%となっており、昨年同時期の09年度計画(全規模全産業▲17.1%、同中小企業▲36.6%)をいずれも上回っている。
日銀は足元の景気について、「緩やかに回復しつつある」という判断を据え置いている。物価が下がり続けるデフレから抜け出すために、現行の金融緩和を続ける方針を示しており、金融政策決定会合では、政策金利の誘導目標を年0.1%に維持することを決定した。
<新貸出制度の対象 成長が見込める18分野>
日銀は、環境やエネルギーなどの成長が見込める分野に潤沢な資金供給を行なうことによって、本格的な景気回復とデフレ克服を図ることを意図している。
その成長対象とされている18分野は、以下の通り。
(1)「研究開発」(2)「起業」(3)「事業再編」(4)「アジア諸国等における投資・事業展開」(5)「大学・研究機関における科学・技術研究」(6)「社会インフラ整備・高度化」(7)「「環境・エネルギー事業」(8)「資源確保・開発事業」(9)「医療・介護・健康関連事業」(10)「高齢者向け事業」(11)「コンテンツ・クリエイティブ事業」(12)「観光事業」(13)「地域再生・都市再生事業」(14)「農林水産業・農商工連携事業」(15)「住宅ストック化支援事業」(16)「防災対策事業」(17)「雇用支援・人材育成事業」(18)「保育・育児事業」。
<地域銀行各行は対象先や適用金利を検討>
地域銀行各行は、成長基盤強化を支援する新貸出制度について、「水道など社会インフラ整備にも利用でき、対象は無数。地域銀行に合っている」と、活用していく方針である。
設備投資に慎重な地域経済にあって、企業の資金需要も弱いが、対象先の選定や売り方、金利など効果的な提案方法を検討している地域銀行もある。
一方で、取引先を含む競合激化や貸出金利の引き下げのきっかけになるのを懸念する声も出てきている。
8月末を予定している第1回の資金供給の対象は、地方銀行33行と第二地方銀行8行の計41行。第二回の公募に向けて準備している地域銀行も多く、さらに増加が見込まれている。
また、先に挙げた18の対象分野には、現在地域銀行が注力している産業・業種が含まれているのに加え、「エコ設備付きの住宅建設業者」「事業拡大資金」など、対象先の切り口も工夫しやすいとみている。
【久米 一郎】
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