前回、「伊都菜彩」の事例を報告しましたが、そこでお伝えできなかった開設効果について追加しておきます。出荷者における開設効果です。多くの出荷者曰く、「生産意欲が湧く」、「元気が出る」、「ゲートボールをやる暇がない」、「病院に行く暇がない」、などといった声が多くあがっているそうです。
さらに成功事例を見てみます。それは、道の駅「むなかた」です。道の駅は皆様ご存知のことと思いますが、国土交通省(制度開始時は建設省)により登録された、休憩施設と地域振興施設が一体となった道路施設であり、道路利用者のための「休憩機能」、道路利用者や地域の人々のための「情報発信機能」、道の駅を核としてその地域の町同士が連携する「地域の連携機能」という3つの機能を併せ持つ施設のことをいいます。具体的には、トイレ、駐車場、休憩施設、情報機能を併設したものです。また、ほとんどの道の駅に農水産物の直売所が併設されていますが、直売所の併設は必須条件ではないのです。国が道の駅を設置する計画に合わせて、農水産物の直売所を自治体やJAや諸団体が設立するというものが、道の駅併設の農水産物直売所です。
さて、その道の駅「むなかた」ですが、開業は2008年4月でした。それ以前に宗像大社横にあった宗像市の公共施設「アクシス玄海」内に、市の観光協会が直売所を出店し経営していたのですが、宗像市の北側釣川河畔に道の駅が整備されるにあたってここに移転したものです。移転にあたっては、当時地元では、アクシス玄海で集客できているのは宗像大社の隣にあるという立地上の優位性によるものであって、ここから数キロメートルも離れた国道495号沿いに移転しても客は来ない、という意見が支配的であったようです。
しかしながら、地元では宗像農業協同組合、宗像市商工会、宗像漁業協同組合、鐘崎漁業協同組合、宗像観光協会の5団体が出資し、(株)まちづくり宗像を設立して新しい場所に直売所を経営することとしました。建物は宗像市が建設し、運営は民間があたるという、公設民営施設です。敷地面積4,152坪という広大な用地に駐車場200台分を揃えた大規模施設といっていいでしょう。その売上ですが、アクシス玄海当時は7億円程度(それでも、直売所の売上規模としてはかなり上位)であったのが、08年4月のオープン後、1年間で12.8憶円(目標の1.7倍)、来場者数139万人という驚異的な売上を達成しました。今年6月には、来場者300万人を突破しました。
その成功要因を考えてみましょう。まず、立地です。福岡市と北九州市という二大政令都市の中間に位置し、ドライブがてらに訪問する客が圧倒的に多かったのです(ドライブ客の購買単価は大変高くなります)。35%が福岡市、25%が北九州市からの来客だということです。これは前回の「伊都菜彩」が、福岡市に隣接しているために成功したという要因とほぼ同様です。もうひとつの成功要因は「鮮魚」(水産物)です。皆さん、宗像市鐘崎地区が天然トラフグ水揚げ日本一の町であることをご存知でしょうか。この地域は、安曇族、海人族、海士の発祥の地ともいえる伝統のある漁業を営む地です。その伝統を受け継いでいるのが鐘崎漁協なのです。ちなみに、仙台名物「笹かまぼこ」のルーツがこの鐘崎だということをご存知でしたでしょうか。このことは、「筑前鐘崎漁業誌」(92年鐘崎漁業協同組合発行)のなかに、戦後すぐに鐘崎から仙台に移住した吉田季玖代さんという方がエッセイではっきり書かれています。その吉田さんの屋号が「かまぼこの鐘崎」です。そのほかに、阿部蒲鉾店というお店もあります。阿部姓は宗像に多い名前です(ついでに私の吉田のルーツも宗像です。吉田姓も宗像には多いです)。
話が脱線しました。戻します。道の駅「むなかた」の鮮魚をはじめとする水産物の売上は、実に35%に達するそうです。ここでは、午前中に鮮魚類は売り切れてしまうほどの人気アイテムなのです。活きのいいアジやサバ、イカ(多くは呼子へ流通しているそうです)など、地域固有の商品が直売所の成功を引き出しているのです。また、ここでも地域ブランド化への取り組みに熱心さがうかがわれます。宗像ブランド「宗像季良里」商品の販売にも力を入れており、市の地域ブランド化への取り組みに積極的に協力しています。
やはり、直売所は地域農水産物を通してその地域を各地に売り込むこと、ひいてはそのブランド目当てに地域に外からの人々を呼び込むこと、これらが非常に大事であることが分かります。
(株)地域マーケティング研究所
代表取締役 吉田 潔
福岡市中央区天神4-9-10 正友ビル5F
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