今さらながらの感がありましたが、前回はマーケティングの定義を見ておきました。ここからは、このようなマーケティング発想が実際に地域でどのように展開されているかについて、何回かにわたって見ていきましょう。第1回は、私が現にかかわっている平戸市の事例です。
平戸市の主要産業である農林水産業は、生産物の価格低迷や後継者不足が深刻化しています。また、観光にかかわる加工品分野でも、観光客の減少とデフレ不況による観光消費額の減少という状況にさらされています。さらに、急速な少子高齢化、過疎化、地域間競争の激化など、平戸市は非常に厳しい局面を迎えています。
このような地域課題の打開策の一つとして、地域の食を始めとする地域資源の持つ固有の価値を見直し、有効に活用して地域を活性化させる「地域資源のブランド化」、ひいては「地域のブランド化」に関する取り組みに注目しました。
地域ブランドにかかわるイメージ調査では、札幌市や函館市、小樽市などの北海道の都市が常に上位に挙げられます。「観光に訪れたい町」や「産品購入意欲度」の評価が高く、なかでも「食」に対する評価が非常に高くなっています。それが「行ってみたい」という気持ちを喚起し、地域全体のイメージを引き上げているのです。これに対して、九州は北海道に観光イメージおよび戦略面で大きく後れをとっています。
ただ小樽市では、観光客は600万人を超えると言われていますが、多くの観光客は観光ルートを駆け足で通り過ぎて行くだけで、観光で潤っているのは「小樽3点セット」と言われる「硝子細工屋」「オルゴール堂」「寿司屋」だけだと言われていることも事実です。観光客の増大が地域産業への波及効果を生んでいないのです。
長崎県内でも県の「平成長崎俵物」「長崎ふく」、佐世保市の「九十九島かき」「佐世保バーガー」などさまざまな取り組みが行なわれ、それなりの成果をあげているようです。
このように、全国各地で地域の特色ある地域産品の創出とプロモーションに力を入れていることから、地域間競争がどんどん激しくなっています。
このようなことから、平戸市では、2008年10月に「平戸市地域資源ブランド化推進協議会」を立ち上げ、地域全体で平戸の産品の地域ブランド化を目指すために必要な取り組みについての協議を始めました。その協議会の実行部隊である「平戸市地域資源ブランド化推進協議会運営委員会」の委員長を私がお引き受けしているのですが、この委員会では、平戸市らしい農水産物を選定して平戸の地域ブランド化を図ろうとしています。
ここで、地域ブランド化の二側面について触れておきます。経済産業省の定義では、地域ブランド化は、地域産品のブランド化を一つひとつ図ることによって地域そのもののブランド化を図ることができるとしています。また、地域ブランドを考えるときに、地域に迎え入れるブランドと地域から外へ向かっていくブランドがある、とも言えます。
平戸市では、上記の協議会、運営委員会活動によって、09年夏に平戸牛、ヒラメ、ヤリイカ、平戸米、アスパラガスなど26品目を「平戸ブランド・ひらど自慢」として認定しており、これらを首都圏や関西圏、福岡都市圏へ積極的に売り出しています。
特筆すべきは、このブランド化選定活動において、マーケティング戦略の理論にのっとった手順を踏んでいることです。
まず、委員会の活動を通して、「ブランド」に対する共通認識の形成を行ない、ブランド化への合意形成(組織体制づくり)も同時に進行させていきます。また、関東、関西、北部九州における消費者により、現状の客観的認識も行なっています。そのデータ分析からブランド化対象品目の絞り込みをします(マーケティングの4P、プロダクトの吟味です)。さらに、絞り込まれた品目に対して、インナープロモーションとも言うべき地域内関係者への動機づけも忘れてはいけません。さらに、マスコミへのパブリシティ活動、福岡市からのモニターツアー、福岡市での食イベントへの参加、アンテナショップの展開等も行なっています(プロモーションですね)。
当面、平戸市は最も近隣の大消費地である福岡市にエリア的なターゲットを絞り込んでいます(プレイス=流通です)。福岡市・周辺からの誘客を図ることが大きな課題でもあります。今後は、これらの活動をさらに展開し、26品目のブランド化ひいては平戸市のブランド化を行ない、交流人口の増大にいかに結びつけるかが課題になっています。
(株)地域マーケティング研究所
代表取締役 吉田 潔
福岡市中央区天神4-9-10 正友ビル5F
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