1429年、沖縄の歴史で三山と称される「中山」「山北」「山南」を統一して琉球王国を起こしたのは尚巴志である。父の死後中山王の跡を継いだ尚巴志は、相次いで山北王、山南王を滅ぼして天下を統一した。中国では明朝の最盛期である。尚巴志は王宮を首里に移し、城の周辺に大規模な庭園をつくり、巨大な人工池を掘らせて琉球王としての勢威を内外に示した首里は、以後450年の長きにわたって琉球王国の首都として栄えた。
　1616年、中国では女真族を率いるヌルハチがワルフの戦いで明の大軍を破り明清交替の幕が切って落された。1631年、農民の反乱軍を率いた李自成が北京を攻め落し、ときの毅宗皇帝が自害して270余年続いた明は滅亡した。その李自成軍を北京から追い払ったヌルハチは、自ら皇帝（太祖）となって大清国を建国した。1636年のことである。その後も、中国の南部にいくつかの地方政権が樹立されたが、そのことごとくが1661年までに清によって征服された。清がはじめて琉球に遣使して帰順を要求したのは1649年のことである。
　1652年には服属を求める二度目の使者がやってきた。琉球政府は明朝復活の可能性を考え対明・清の両面外交を展開しながら様子を伺っていた。内陸地を平定した清は1661年、遷界令と呼ばれる海禁政策を実施して、復明抗清の旗印を掲げ海上から頑強に抵抗していた鄭成功の貿易活動を阻止した。ここにいたって明朝復活の糸は断たれた。清が琉球王の進貢を認知する冊封使を派遣したのは1663年のことだった。清も明が推進した「冊封・進貢政策」を継承した。
　「冊封」は皇帝の徳を慕って入貢して来る外国の王を皇帝の名において認知し、冊封された外国の王は、皇帝への忠誠を誓うために使者（進貢使）を派遣して進貢する制度である。明清交替の戦乱期に立ち往生していた進貢使たちは国書をつくり変えて清朝に進貢し、草創期の清朝政府から「諸国に先んじての進貢」として評価された。明代を通じて琉球はアジアのどの国よりも多く中国に出入りすることができたのは冊封・進貢制度によるところが大きいが、その背後には明・清両国が取った海禁政策があることも否めない。
　1866年、琉球では清から冊封使を迎えて新王尚泰の即位式を行った。冊封使は清朝皇帝の進貢を認知する承認状を持参する。首里城第二門に掲げられた「守礼之邦」の扁額は、「琉球が礼を守る邦（くに）」であることを強く印象付けていた。しかしながら、尚泰は琉球王国最後の王となる運命だった。1871（明治４）年の維新後の廃藩置県によって、琉球はいったん薩摩藩改め鹿児島県の管轄下に入るが、翌年には「琉球藩を設置し尚泰を藩主とする」政令によって日本政府の直轄下にはいった。理由はこれまで琉球と冊封関係にあった清の強い反撥が予想されたからである。その後、琉球を中国から切り離し日本の領土とする政策は「琉球処分」として実施される。
　1879（明治12）年、ときの首相伊藤博文は、琉球処分官松田道之を派遣して琉球処分を強行させた。その結果、琉球藩は消滅して沖縄県が設置され、これまでの歴史の激流のなかで独立を保ってきた琉球は消滅した。
　沖縄県の設置を認めない清との領土交渉は難航した。日本側の主張は「沖縄島以北を日本領、宮古八重山諸島を清国領」とする二分割案だったが、清は「日本領と清国領の間の沖縄諸島を独立させて琉球王国を復活させる」というものだった。やっとの思いで琉球処分を進めてきた日本にとってはとても呑めない案だった。交渉の結果、清も二分割案に同意したが、今度は亡命琉球人たちの強い反対にあって正式調印がなされないままに日清戦争に突入し、結局、領土問題は立ち消えとなった。戦後、琉球は当然のように日本領に組み込まれた。

小宮　徹／公認会計士
（株）オリオン会計社
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