<売買交渉の過程に疑問 危惧される乱暴な介入>
10月の方は、今回の核心人物の1人であるアーム・レポ代表の田中氏が証人として立った。主張としては「大成建設だけが当社の希望に見合う金額を提示したから売却しただけのこと。やずやへの転売は当社の関与するところではなく、なぜアークエステートが仲介外しをされたとして当社を訴えるのか理解できない」、「あくまでもアークエステートはやずやの代理人として売買契約に関わったのであり、当社の仲介業者ではない。したがって、仲介手数料を支払う必要はない」といったところだろう。しかしながら田中氏は、アークエステートの山本氏とやずやを限定した専属専任媒介契約を締結して8月中旬まで山本氏と頻繁に協議を重ねていたことも事実である。
「言った、言わない」、「記憶にある、ない」という水かけ論の部分はさておくとして、全体としては大成建設の手前、田中氏はあまり情報が出せなかったのではないかという印象を受けた。とくに気になったのは、売却先が決まる過程の話。田中氏の主張によれば、当時アーム・レポはやずやへの売却は金額的に損失が大きすぎて大成建設の同意を得ることは難しいのではないかと考えており、大成建設への売却の路線で交渉を重ねていた。ところが、ようやく基本合意に至った09年8月18日前後、大成建設から転売先がやずやだと知らされ「愕然とした」という。
この話が本当であれば、アーム・レポは大成建設と意思疎通がとれていなかったばかりか、「やずやには売らない」というウソをつかれていたことになるのではないだろうか。総じて、今回の事件は、セキュアード社がきちんと購入代金を払えないところから端を発しており、少しでも傷を浅くしたいという思惑を抱いた大成建設が紹介者であるアークエステートを抜きになりふりかまわず直接売買交渉を重ねていたという、中央資本に翻弄される地場業者の姿が浮かび上がる。
今になって振り返ってみれば、07年前後に沸き起こった不動産バブルとその崩壊は、福岡のみならず日本のマンション業界に多くの教訓を遺した。数十億、数百億円単位で動くファンドマネーはデベロッパーの目には魅力的に映り、サブプライムローン問題やリーマン・ショックの影響はあったにせよ、結果として、それまでバクチ打ち的なリスクを抱えて開発案件をこなしていた多くの不動産業者を倒産に至らしめた。
アーム・レポも、当時はあちこちで倒産の風評が流布したが、田中社長の持ち前のバイタリティと信念で今日まで生き残っている点は敬服に値する。あっさりとお手上げして諦めた後進のデベロッパーは、こうした姿勢を見習うべきだった。ただ、今回の裁判でアークエステートが負けるということは、すなわち地場業者が中央資本による乱暴な介入を許してしまうということにつながるのでは、と危惧する。いずれにせよ、判決の行方を見守りたい。
【大根田 康介】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら